「私はエイズでパートナーを亡くした」来春公開の映画「BPM」上映会で語られた日本のHIV/エイズ

2018年3月公開の映画「BPM(Beats Per Minute)」ジャパンプレミア試写会が東京・中野区の「なかのZERO」で行われた。

 

f:id:soshi-matsuoka:20171124073838p:plain

第70回カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞し、第90回アカデミー賞 外国語映画部門フランス代表に選出されたロバン・カンピヨ監督の長編第3作。舞台は1990年代初めのパリ。エイズ発症者やHIV感染者への差別や不当な扱いに抗議し、政府や製薬会社などへ変革に挑んだ実在の団体「ACT UP-Paris」の活動を通して、若者たちの恋と人生の輝きを描く。ACT UPのメンバーだったという監督自身の経験が物語のベースとなっている。明日も知れぬ命を抱える主人公の葛藤、感染者を一人でも減らしたい、友人の命を助けたいという情熱、恋人との限りある愛・・。生と死、理想と現実の狭間で揺れ動きながらも、強く生きる若者たち。彼らの生き生きとした表情や行動が、力強くエモーショナルな映像と共に綴られる、感動作。

映画「BPM」公式WEBサイトより

印象的な四つ打ちのBGMに煽られながら、登場人物の感情そのままを突きつけられる、心揺さぶられる映画だった。

ACT UPのミーティングと活動とを順に追うドキュメンタリーテイストでありながら、細部に描かれる人間関係が鮮明で、フィクションとは思えないほど生々しい。生と死の間で、怒りや喜び、悲しみが溢れ出るように表現され、目を離すことができなかった。

最後の沈黙にこの映画を観た人は何を想うのか。ひとりひとり異なるがきっと何かを受け取り、考えさせられる映画だ。

岩が頭の上から落ちてきたように、ただただ怖かった

上映後のトークショーでは、第31回日本エイズ学会学術集会・総会会長の生島嗣さん司会のもと、社会学者の山田創平さん、新宿でバー「タックスノット」を経営されている大塚隆史さんから、日本の1980年代のHIVを取り巻く状況について話があった。

特に大塚さんは、1989年に同性のパートナーをHIVで亡くされていて、その当時と今回の映画とを比較しながら思いを語った。

f:id:soshi-matsuoka:20171124024202j:plain大塚隆史さん(写真中央)

1988年の秋頃から、大塚さんのパートナーは風邪が治らなくなり、むしろ悪化の一途を辿っていた。

HIVだとわかったのは12月頃でした」と話す大塚さん。

「新聞で『ゲイがかかる病気』という記事を見つけて、何だろうと思いながらも他人事のように読んでいました。まさか自分の所までやってくるとは思いもしなかったです」

パートナーが亡くなったのは翌年の4月頃。大塚さんもHIVの検査を行ったが結果は陰性だった。

病院では「何もできることがない」と言われ、肺炎になったら肺炎の治療を、と対症療法でしかできることがなかったそう。また、医者からは「このことは信頼できる友人にだけに伝えて、それ以外の人には言っちゃダメだ」と言われた。
 

実はその頃、週刊誌が「国内初の女性のエイズ患者」「この人と性行為をした人は気をつけろ」というような内容で、エイズ患者の女性の顔を掲載し、マスコミも交えたセンセーショナルな報道が日本中に広がり、いわゆるエイズパニックへと発展した。神戸事件と呼ばれている。

当時からゲイバーを経営していた大塚さんは「自分らしく、ありのままで生きていこう」と客に伝えていたが、自分は本当のことが言えない。

「岩が頭の上から落ちてきたように、ただただ怖かった」と当時を振り返る。

 

花見の時期に、パートナーはトイレに行くだけで息が切れるようになり、即入院。滅菌室に入れられ、大塚さんがパートナーと面会できたのは週にたった1日だけだった。

結局、パートナーは入院してから3週間ほどで亡くなってしまったため、実質、2回ほどしか面会することはできなかったそう。

 

「映画の中で登場人物たちは『怒り』を力に活動していた。自分は当時何も知識がなくて、ただただ怖かったんです」

 映画の中で出てくる「沈黙は死だ。知識は力だ。」というスローガンが印象的だったと話す大塚さん。「怒りだけではなく、そこに知識があること、一人じゃないということが大事だと思います」 

HIV/エイズをめぐる現実はものすごいスピードで変化している

「映画の中で、目覚まし時計が鳴ったら薬を服用するというシーンがありましたが、昔は1日何回も薬を飲まなくてはいけませんでした」と山田さんは説明する。

「今では6〜7割の人が、1日1回の服用で済む。また通院も2ヶ月に1回程度で、今はほとんどの人がウィルスが検知されない『検出限界以下』になっています。こうなるどコンドームを使用しなくてもHIVに感染しないという研究結果もあるようです」

12月1日の「世界エイズデー」に合わせ現在開催中のTOKYO AIDS WEEK 2017。公式WEBサイトには「HIV/エイズをめぐる現実はものすごいスピードで変化している」と書かれている。

映画で語られているように、そして大塚さんが当時を振り返って話すように、知識は力となり、その後の社会に強く影響を与えるだろう。

HIVエイズへの関心を高めることで感染拡大の防止をはかり、さらにHIV陽性者などに対する偏見や差別の解消を目指すため、TOKYO AIDS WEEK 2017では、中野を中心に様々なイベントが行われる。

スケジュールは公式WEBサイトから確認できる。関心のある方はぜひ参加してほしい。

 

aidsweeks.tokyo