LGBT炎上問題から考える「炎上の中からこそ、世の中のためになることを見つける」とは

東京、渋谷区神宮前二丁目にあるアジアンビストロ「irodori」が3月に閉店する。LGBTのコミュニティスペース「カラフルステーション」を併設しているirodoriは、昨今のLGBTを取り巻く社会の変化の中心地とも言える場所だ。閉店に向け開催される全6回のクロージングイベント、LGBTのこれまでとこれからを考える「カラフルトーク」をレポートする。

f:id:soshi-matsuoka:20180218204429j:plain

第5弾のテーマは「LGBT炎上問題」。LGBTについての認知が広がるにつれ、多様な性に対する理解を広げるための活動や、LGBTの人たちがより生きやすくなるための施策やサービスなども増えた。

しかし、その中には時に的外れとなってしまうものや、本来の意図と違った形で世にでてしまうもの、ある人にとっては良くても一方では誰かを傷つけてしまっているものなどもあり、批判を呼ぶこともある。

LGBTイシューに限らず日々「炎上」と呼ばれる事象は起きているが、残念ながら一過性となってしまうものが多いように感じる。時間が経ち、何が問題だったのかをもう一度考えたり、反省し次にどう活かすことができるかについて議論する機会はなかなか多くない。

今回のイベントでは、以前LGBTに関することで「炎上」を経験したメンバーらが登壇。後述するが、「カラフルステーション/グッドデザイン賞」や「人権マーケット」発言などで多くの批判を集めてしまった、irodoriのオーナーでトランスジェンダー活動家の杉山文野さん。「おか米」で物議を醸した株式会社G-pit net works代表取締役井上健斗さんと、ドラァグクイーンのマーガレットさんの3名が、昨今のLGBT炎上問題を振り返った。

イベントではひとつひとつの問題について触れていたが、この記事ですべてを取り上げることは難しいため、それぞれの問題の経緯についてをまとめ、イベントで特に議論された「言葉」というトピックについて、登壇者のマーガレットさんの発言を抜粋して取り上げたい。

f:id:soshi-matsuoka:20180320145301j:plain

左から井上健斗さん、マーガレットさん、杉山文野さん。

12件の炎上問題

取り上げたトピックは、炎上と呼ばれるものから、炎上というよりは"議論になった"というものまでを含め、以下の12件。それぞれについて簡単に説明する。

  1. おか米
  2. 保毛尾田保毛男
  3. カラフルステーション/グッドデザイン賞
  4. 渋谷区トイレマーク
  5. 人権マーケット
  6. LGBT検定
  7. LGBT人権講師/高額セミナー
  8. ゲイエリート
  9. 広辞苑LGBTの説明
  10. 宮中晩餐会への同性パートナー出席反対
  11. 東京レインボープライド2017 消えたプラカード
  12. 同性パートナーシップ解消
1.おか米

「おか米」は、登壇者の井上さんが経営する株式会社G-pit net worksが、トランスジェンダーの就労支援のため、農地を借り、当事者を集めつくったお米のこと。おかまやおなべが作ったお米だから「おか米」というネーミングについて、「おかま」という、これまで差別的に使われてきた言葉を使ったことや、FtMトランスジェンダーの井上さんが「おかま」という名前を使うのは他虐的だ、など批判が殺到した。現在は「農家まっつら」という名前に変わり販売を継続している。

2.保毛尾田保毛男

フジテレビの番組「とんねるずのみなさんのおかげでした」で、約30年前に人気だったとんねるず扮するキャラクター「保毛尾田保毛男」が再登場。LGBTについて認知が広がりつつある中、同性愛者を笑いのネタとして差別的に扱ったことに対して批判が起き炎上した。その後フジテレビ社長が公式に謝罪した。当事者の中でも賛否は分かれた。

3.カラフルステーション/グッドデザイン賞

2015に渋谷区でスタートした、通称「パートナーシップ条例」がグッドデザイン賞を受賞することになった。しかし、その受賞主体がirodoriに併設されている「カラフルステーション」になってしまったことに対し「区の条例なのに、受賞主体が民間の一団体というのはどういうことか」と批判が起こった。今回のイベントの登壇者でもある杉山文野さんらが経緯を説明し、グッドデザイン賞受賞から辞退した。

4.渋谷区トイレマーク

渋谷区庁舎のだれでもトイレに、レインボーで色付けられた男女半身ずつの体のピクトグラムが追加された。「トランスジェンダーは男と女の間なのか」「レインボーをつけることによってむしろセクシュアリティがバレてしまう」「そもそもトイレで啓発が必要なのか」といった批判が起こった(渋谷区庁舎ではないが、こうしたトイレについて、メディアで「LGBTトイレ」と表現されてしまったこともあり「本来トイレに困りやすいのはトランスジェンダーなのに、LGBも一緒に扱われてしまっている」「LGBTはこのトイレだけを使えというのはおかしい」などの批判もあった)。渋谷区庁舎以外でもトイレサインを中心にトイレ利用に関する問題は議論されている。

5.人権マーケット

2017年の東京レインボープライドの際、登壇者の杉山文野さんが毎日新聞インタビューの中で、LGBTは「マーケットになって、人権を得られる側面もある」とコメント。これに対して「お金にならないと人権は得られないのか」と批判が殺到した。すべての人が生まれながらにして基本的人権を持っており、杉山さんが伝えたかった意図として「LGBTは別の世界の人ではなく、いち生活者としてそこにいることをわかってもらいたかった」と話す。

6.LGBT検定

日本セクシュアルマイノリティ協会が始めた「LGBT検定」。LGBTについて学んだことを証明するものとして作られた検定で、かかる費用は約4万円だ。これに対して「"私はLGBTを理解しました"と検定を受けた人に言われても信じられないし逆に怖い」などの批判が起きた。また、「セクシュアリティについての考え方や、LGBTという言葉が生まれた歴史的経緯などについての理解度を測る検定は良いのでは」という意見もあった。

7.LGBT人権講師/高額セミナー

LGBTについての講演活動を行う「人権講師にならないか」と、当事者が高額セミナーに誘われトラブルが起きた。費用は高くて200万円と、当事者の弱みにつけこむ悪質商法だと批判が殺到した。

8.ゲイエリート

カミングアウトフォトプロジェクト「OUT IN JAPAN」で撮影された、大手企業で働くゲイの方々の集合写真に、撮影した写真家が「The Gay Elite」と書いてWEBで公開。これに対して、「お金を持っていないと社会に受け入れられないのか」、「高所得なゲイの男性だけを取り上げることで、経済的な理由で社会的に弱い立場にいる当事者を見えなくさせている」といった批判が起きた。「The Gay Elite」という文言が入っていないもともとの写真は六本木アートナイトでの展示会や、WorkWithPride2016等で展示された。

9.広辞苑LGBTの説明

広辞苑が10年ぶりに改訂。その中で「LGBT」が新たに追加された。しかしその内容は「レズビアン、ゲイ、バイセクシャルトランスジェンダーの頭文字。多数派とは異なる性的指向を持つ人々。GLBT」となっていた。性的指向についてのマイノリティがLGBで、性自認についてのマイノリティがTであり、この説明は間違いだと批判が起きた。岩波書店は後日これを謝罪し、WEB上のみで解説文を訂正した。

10.宮中晩餐会への同性パートナー出席反対

自民党竹下亘総務会長が、宮中晩餐会への同性カップルの参加は「私は反対だ。日本国の伝統には合わないと思う」と発言し物議を醸した。その後、河野太郎外相や安倍晋三首相は外務省の行事において、同性パートナーを配偶者として迎えるよう指示した。

11.東京レインボープライド2017 消えたプラカード

東京レインボープライドが発行する雑誌「BEYOND」で、LGBTに関する活動を行う数名が、それぞれの伝えたいメッセージを書いたボードを掲げて表紙を飾った。しかし、そのうちの一名だけボードを持たない写真が起用されたことで「メッセージが意図的に削除された」と誤解を招き批判が集まった。主催側はデザイン上のバランスを考慮しての判断だったが、活動する人にとってアイデンティティとも言える一番伝えたいメッセージよりもデザインを優先したことを謝罪し修正した。

12.同性パートナーシップ解消

渋谷区のパートナーシップ証明書第一号を取得した、東小雪さん増原裕子さんカップルが、2017年12月にパートナー関係を解消した。二人は公式にWEBサイトで解消を発表したが、これに対して「社会にメッセージを伝えるために大々的に結婚式を行い、証明書も発行しているのに、解消するときは会見などで発表しないのか」という意見や、「同性カップルも異性カップルも、結婚する人もいれば離婚する人もいる。他人がとやかくいうことではない」という意見など議論がおきた。

f:id:soshi-matsuoka:20180320150020j:plain

それぞれのトピックには、もちろんここで取り上げきれないさまざまな角度からの意見があった。さらに、単純なミスや思惑の入れ違いから、一言では語れない複雑な背景の上で起きている問題まで幅広い。

すべての問題について再検証するためには、本来ひとつひとつの問題の構造や、特権性などについて考える必要があるだろう。

「言葉」は「車」と同じ

今回、イベントの中で特に議論されたのは「言葉」について。

SNSの普及により、これまで見えてこなかった声が届くようになった。これはLGBTをはじめとするマイノリティにとって非常に強い味方となった。

それと同時に、あらゆる人から広く社会に発信される「言葉」は、本人の意図しないように受け取られてしまうことも多い。

登壇者の一人、マーガレットさんは「当たり前ですが、言葉というのは受け手によって様々な解釈がなされます」と話す。

「◯か×かみたいな、言葉を使って良いのか良くないのかみたいなところに論点が集中しちゃうけど、言葉はすごく曖昧で多面性がありますよね。

最近、言葉は『車』と一緒じゃないかと考えています。車自体が問題なのではなくて、車にどんな人が乗っていて、どこ向かって走ろうとしているかの方が問題。

交通事故がおきた時に『車なんてまかりならん!』となってしまうのではなく、『交通ルールがあるじゃん』とか、『交通ルールはないけど、このまわりは小学校が多いからもうちょっとスローで走ってくれると嬉しいな』という所で考えたい。

0か100かみたいになってしまうのではなく、その背景にはお互いどんな状況があるのか、月並みですけど『行間を読む』という能力が求められているのかなと思います」。

f:id:soshi-matsuoka:20180320150115j:plain

傷つけない笑いもある。何が問題だったかを見直したい。

会場の参加者からは、ひとつひとつの問題についてもっと検証を重ねつつ、どういった表現がよかったのかを考えたいという提言があった。

「例えば、保毛尾田保毛男の件は、番組中に『あくまでの噂なの』といつものネタをやって、さらに、隣にいたたけしが『うちの近くに変なおじさんがいて...』みたいな話しをしてしまい、『やっぱり男性同性愛者をそういう特徴を持っているんだ』という話しになってしまっていました。

この問題に対して、面白いなと思ったツイッターの意見で、『これだけ時代が進んできたから、保毛尾田保毛男が『あくまで噂だったんだけど、海外で同性婚したんだ』みたいなことを言ったら、世間の受けとり方も全然違ったかもしれない。

笑いというのは、傷つけない笑いもできると思います。何が問題だったのかひとつひとつ見直して、もっと建設的な議論を続けていくことが大事だなと思います」。

最後にマーガレットさんは「私は基本的に人間はたいして変わらないと思うんです。違う点に着目して分断していくという発想よりは、違ってあたりまえの世の中で、違う人間同士の中に、何か共通するものを見出して繋がっていくほうがよろしいのかではと私は思います。その違いを超えたところで、共通の言葉を生み出すという努力が必要なのかなと。

運動でも何でも、言葉を使うことは、すべて予定調和で正しいこと正しくないこと分けられるものはないわけで、どんな”余分なもの”を拾い上げられるか。

ただ単に炎上して終わりというのはつまらないですよね。炎上の中に、何か自分にとって良いこと、世の中や人のためにとって良いことをいくつも見つけられたらなと思っています」。

 

irodoriクロージングイベント「カラフルトーク」過去のレポート

第1弾「LGBTとスポーツの未来」

第2弾「ゲイアートの巨匠・田亀源五郎さんによるトークショー」 

第3弾「カラフル家族会」

第4弾「ダイバーシティと街づくり」 

 

プロフィール

松岡宗嗣(Soshi Matsuoka)

f:id:soshi-matsuoka:20170222180245j:plain

1994年名古屋市生まれ。オープンリーゲイの大学生。LGBT支援者であるALLY(アライ)を増やす日本初のキャンペーン「MEIJI ALLY WEEK」を主催。SmartNews ATLAS Program

Twitter @ssimtok
Facebook soshi.matsuoka