「炎上ではなく灯火を」世界を幸せにする広告を集めた企画展が開催
広告による「炎上」を目撃する機会が増えた。特にジェンダーをめぐる表現は、既存の価値観のままでいたい人たちと、より良い社会を目ざし、変化を求める人たちとの間で、分断がより広がっているようにも感じる。
しかし、視線を移してみると、その分断を繋ぎとめようと社会に語りかける広告も、世の中にはたくさん生み出されている。
「こうこくは、こうふくのそばにいなくちゃね」というキャッチコピーが目を引く企画展「世界を幸せにする広告 - GOOD Ideas for GOODII -」が、東京・汐留の「アドミュージアム東京」で開催中だ。そこには、世界中でさまざまな社会課題の解決にチャレンジする広告が展示されていた。
社会に気づきを与えるアイデア
2016年に第1回が開催され大きな反響を呼んだ。2回目となる今年のテーマは「Humanity(人間性)」。
誤解や偏見、老いや苦痛があっても自分らしく生きる人たちに勇気を、社会に気づきを与えるアイデアがちりばめられていた。
その中でもLGBTをはじめ、ジェンダーやセクシュアリティをテーマにした展示も多く収集されていた。その中からいくつか印象的だったものを紹介したい。
「大問題 愛は平等」(The Big Deal #EqualLove)/シドニー・ゲイ&レズビアン・マルディグラ
ある一家の誕生日パーティ。皆バーベキューソースをかけている中、突然息子が立ち上がり「僕はトマトソース派なんだ」と打ち明ける。驚愕する家族、激昂する父。しかし、父は思い悩んだあと息子を抱きしめる。
この映像の秀逸な点は、トマトソース派であることをカミングアウトした息子のとなりにいる同性のパートナーの存在が、特に違和感のない日常の風景として描かれている点だ。ラストを締めくくるメッセージは「ささいな違いを大きな問題にすべきじゃない」。
「プラウドワッパー」(PROUD WHOPPER)/バーガーキング
バーガーキングがサンフランシスコのPRIDE PARADEに合わせて実施したキャンペーン。販売された「Proud Whopper」についてお客が中身を聞いても、店員は「わかりません」の一点張り。食べてみるといつものハンバーガーと違いがわからない。ところが、食べ終えると包み紙には「We are all the same inside(私たちみんな中身は同じ)」の文字が。その人を包むものが何であれ、みんな同じ人間だというメッセージだった。
この性を生きる。/東海テレビ放送
性の多様性をテーマに東海テレビが制作した映像。セクシュアルマイノリティの当事者やその家族へのインタビューをまとめたもの。
「残されなかった思い出」(Nobady’s Memories)/PFLAGカナダ
古いホームビデオのような結婚式の映像がいくつも流れてくるが、これらは全て架空の映像だ。もし同性婚があったら残されたであろう「思い出」を描いた作品。
「無限の勇気」(Unlimited Courage)/ナイキ
トランスジェンダーとして初めてアメリカ代表選手となったクリス・モージャーの挑戦を取り上げたナイキのキャンペーン動画。
「#もっと女性を」(#MoreWomen)/Elle UK
社会の要職に女性を増やすためのキャンペーン「#MoreWomen」。フォトショップを使って世界中のテレビ番組や政府の会議の写真から男性を消去してみたという映像だ。
5月19日は、会場2階のライブラリーで、人が「本」となり読者と対話するヒューマンライブラリーも開催。トランスジェンダーやゲイの当事者ら3名が各々の人生や想いを語った。次回は6月23日(土)、視覚や聴覚に障害のある方々が登壇する予定だ。
炎上ではなく「灯火」を
展示はジェンダーやセクシュアリティに関するもの以外にも、障害や年齢、人種、環境などさまざまなテーマに関する広告が展示されていた。思わず時間を忘れてしまうほど、ひとつひとつの広告作品に心動かされた。
炎上は一瞬とはいえ、痛みや怒りを感じる広告の方がどうしても記憶に残りやすい。しかし、最後までじんわりと心に残り続けるものは、きっとひとりひとりの灯火となって、その人のアクションへと繋がっていくのではないかと思う。
炎上ではなく、そんな灯火となるような広告が増えていって欲しい。
プロフィール
松岡宗嗣(Soshi Matsuoka)
1994年愛知県名古屋市生まれ。明治大学政治経済学部卒。一般社団法人fair代表理事。オープンリーゲイ。LGBTを理解・支援したいと思う「ALLY(アライ)」を増やす日本初のキャンペーンMEIJI ALLY WEEKを主催。