松岡宗嗣の2018年

こんにちは、松岡宗嗣です。

大学を卒業し、fairを立ち上げて最初の年末。自由に人生を組み立てられる楽しさと、これからやっていけるのかという不安と共に、なんとか2018年も生きていくことができました。

同時に、さまざまな人に支えられていることを実感する年にもなりました。関わっていただいたみなさま、ありがとうございました。

ざっくり今年を振り返ってみたいと思います。

  1. 大学を卒業し、fairを立ち上げました
  2. 書きました
  3. サンフランシスコに行きました
  4. メディアや学校などで話しました
  5. デザインしました  

1. 大学を卒業し、fair立ち上げました

soshi-matsuoka.hatenablog.com

一般社団法人fairでは、政策や法整備を中心としたLGBTに関する情報を発信しています。 

  • キャンペーンをうったり

    fairs-fair.org
    ちなみに、パブコメが反映されいくつかの要望が盛り込まれました。ご協力いただいたみなさまありがとうございました!

  • イベントを開催したりしました。

    fairs-fair.org

    fairs-fair.org


2.書きました

  • 現代ビジネスに寄稿したり
    世間を騒がせた杉田水脈議員の寄稿文を発端とする騒動。新潮45の休刊発表後、現代ビジネスに寄稿させていただきました。

    gendai.ismedia.jp

  • irodoriのクロージングイベント「カラフルトーク」全6回をレポートしたり
    今年3月に閉店してしまったirodoriで開催されたクロージングイベントをレポートしました。最後にレポートを冊子にしてクロージングパーティで配布しました。

    soshi-matsuoka.hatenablog.com

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    レポートを冊子にしました
  • 東京レインボープライド2018のウィークイベントをレポートしたり
    どうしてもイベントや情報は東京に集中してしまいがち。できるだけどの地域の人にも幅広く情報が届いてほしいと思い、ウィークイベントをレポートしました。

    fairs-fair.org

    fairs-fair.org

  • 「結婚の自由を全ての人に」イベントをレポートしたりしました。
    来年2月中旬に同性婚訴訟が提訴されます。ますます注目を集める話題になると思いますが、私も影ながらこのムーブメントをサポートしています。
    第1弾「いる?いらない?同性婚

    fairs-fair.org
    第2弾「できる?できない?同性婚

    fairs-fair.org
    1月21日(月)には
    第3弾「する?しない?同性婚」を開催します。ぜひご参加ください。

3.サンフランシスコに行きました

今年7月末に、サンフランシスコに行ってきました。NQAPIAという団体のNational Conferenceに参加するためです。アメリカのLGBT関連団体を視察することができて非常に刺激的な旅になりました。

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まさかの母親と行くことになるとは思いませんでした。

fairs-fair.org

fairs-fair.org

4.メディアや学校などで話しました

AbemaTV、フジテレビ、TBS、J-WAVETOKYO FM、ニューズオプエド朝日新聞DIALOG、毎日新聞東京新聞、神奈川新聞等、いくつかのメディアに呼んでいただいたり、取り上げていただいたりしました。高校生や学校の先生、企業、自治体に向けての講演もさせていただきました。

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5.デザインしました

個人で続けているデザインの仕事ですが、NPOを中心にパンフレットやチラシなどを制作させていただきました。

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デザイン例

いままでデザインを担当させていただいたものを一部以下のnoteにまとめました。
もしご依頼したいという方がいればぜひご連絡ください、お待ちしています!

note.mu

2019年に向けて

来年は、より自分の発信したい領域を絞って深掘りし、お届けしていきたいと思っています。fairはまだ立ち上げたばかりです、これから少しずつ仲間も増やしていきたいと思っています。巻き込まれてもいいよ!という方、ぜひお声がけください。

安定した生き方ではないので不安もありつつですが、やりたいことは尽きず、楽しい日々を送っています。

今年9月ごろ、世間の注目を集めたテニスの大坂なおみ選手が、NHKの取材中「やりたくないことやってる暇はねぇ」という最近覚えた日本語を紹介している動画が、なぜか強く心に残っています。

来年も、自分にできることを丁寧に、でも大胆に、積み上げていきたいと思います。

24歳になりました。この数日の学びと怒りと勇気について話します。

24歳になりました。

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サンフランシスコでお祝いしてもらった時の写真。祝っていただいた皆さんありがとうございます!

たくさんのメッセージありがとうございます。24歳の誕生日はサンフランシスコで迎えることになりました。こちらはいま29日の夜中2時くらいで、参加しているNQAPIAのカンファレンスの最終日です。

NQAPIAはアジア太平洋諸島出身(や、所縁のある)LGBTQコミュニティということもあり、カンファレンスでは特にインターセクショナリティ(差別や抑圧の"交差性")について考えさせられる場面が多くありました。

ジェンダーセクシュアリティ、人種、宗教、障害などを理由とする問題が重なり合ったときに、より排除されてしまったり周縁化されてしまうことについての議論が多数行われていました。

現地の団体もいくつか視察し、例えばサンフランシスコのアジア系LGBTQコミュニティであるAPIENCや、LGBTQに対して法的なサポートを提供するNCLR(National Center For Lesbian Rights)、Transgender Law Center、また、家族関連や現場支援としてOur Family CoalitionやSan Francisco Community Health Centerなども見てきました。

特にトランプ政権によって、LGBTQコミュニティがより厳しい状況に置かれている中でどのように現実に対応するか。運営を持続するためのファンドレイズや組織のオーガナイズ。例えばどの訴訟が国レベルでインパクトがあるか、どの問題にフォーカスしてプロジェクトを立ち上げるか。戦略的にひとつずつ組み立ていくことの重要性について非常に学びが多かったです。

 

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自分だけの力でこれまで歩けてきたわけではない

先日、日本では杉田水脈氏の件について抗議が行われましたが、参加できなかったのはとても悔やまれます。

SNSで流れてくる映像や記事を見て、ひとりひとりの想いや言葉に心が震えているのを感じました。それは怒りだけでなく、嬉しさや暖かさでもありました。

 

日々生きている中で突然投げかけられる心ない言動に直面した時、これまでは「社会はこういうものだ」と、「自分が適応してうまいことかわしていく方が良い」「波風を立てないようにうまく立ち回った方が良い」と思っていました。ひとりひとりの人生や生き方について考える際は、いまでもそう思う部分はあります。その方が生きるのが楽だから。

しかし、ふと自分の歩いてきた道を振り返ってみると、決して自分だけの力でこれまで歩いてくることができたわけではないということに気づくことができます。

こうして私がゲイであることをオープンにして発信できるのは、ずっと以前から声をあげ続けてきてくれた人がいたから。もっと言えば、セクシュアリティに限らず、例えば教育を受けられたこと、医療サービスを受けられて日々健康に過ごせていること、男性としての部分でこれまでの人生でアクセスしやすかった場面があることなど、自分だけの力では得られないことやある種の特権を与えられていたのかなと思う部分もあります。

先を歩いて道を開いてくれた人の努力について考えずに享受し、生きられるということ自体はとても幸せなことだと思います。しかし、それは決して「だから私たちは次の世代には引き継がなくて良い」ということではないと思うのです。

少なくとも私自身は、次を生きる世代が、私たちよりももっと楽に、自分の可能性を存分に発揮できるような社会を作っていきたいと思っています。

優しさだけでは守られない

今回の杉田氏の発言は、一方的に優劣をつけて誰かを貶めることを良しとしてしまうような非常に危険な考え方です。こうした考えにはしっかりと継続的に批判していかなければなりません。

また、その批判の内容についてももう少し考えていく必要があると思います。

「日本は昔から寛容だった」という話や、「制度はないけど外国で起きる身体的な暴力も少ない」といった話もよく耳にします。今回の件に対しても多く見かけた意見です。確かにそうした部分もあるかもしれませんし、現に私はこれまで友人や家族にカミングアウトした際、幸いにも快く受け入れてくれた方ばかりでした。現在のLGBTを取り巻く日本社会の良い所はたくさんあります。しかし、「だから日本に差別はない」ということにはなりません。

抗議活動のスピーチで林先生が仰っていたように「優しさ」だけでは解決できない、優しさだけでは守ることができないときがあるのです。

仕事を失った時、パートナーや家族に不幸が起きた時、自分の居場所を失った時、自分の力ではどうしようもできない所に追いやられてしまった時、周りの人の優しさだけでは解決できないことがあります。

だからこそ、どんな人でも守られるような制度が必要だと私は思います。

これは決して上から目線で「弱い立場の人を守る」というものではないと思います。なぜなら、私自身、明日自分の身に何が起こるかわからないからです。明日、もし何か自分の力ではどうしようもできないことが起こった時、ちゃんと守られる社会であってほしいからです。

勇気もたくさんもらいました

杉田氏の文章や動画での発言は、最初「またいつも通りのめちゃくちゃな内容で何か言ってるな」くらいに思っていたのですが、この件に意を唱えて共に怒ってくれる人がLGBTに関して発信している人以外にもたくさんいたことをとても心強く感じました。

これまで自分ひとりの力で生きてこれたわけではないからこそ、ひとりの力には限界があるからこそ、互いに手を取り合い、連帯することで大きな力となる。サンフランシスコで出会った団体やLGBTQコミュニティの人々、日本で杉田氏の件に意を唱えた人々から私は勇気をもらいました。このバトンを次の世代に引き継いでいきたいと私は思います。

この1年も、自分にできることを積み重ねていきたいと思います。

「炎上ではなく灯火を」世界を幸せにする広告を集めた企画展が開催

広告による「炎上」を目撃する機会が増えた。特にジェンダーをめぐる表現は、既存の価値観のままでいたい人たちと、より良い社会を目ざし、変化を求める人たちとの間で、分断がより広がっているようにも感じる。

しかし、視線を移してみると、その分断を繋ぎとめようと社会に語りかける広告も、世の中にはたくさん生み出されている。

「こうこくは、こうふくのそばにいなくちゃね」というキャッチコピーが目を引く企画展「世界を幸せにする広告 - GOOD Ideas for GOODII -」が、東京・汐留の「アドミュージアム東京」で開催中だ。そこには、世界中でさまざまな社会課題の解決にチャレンジする広告が展示されていた。

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社会に気づきを与えるアイデア

2016年に第1回が開催され大きな反響を呼んだ。2回目となる今年のテーマは「Humanity(人間性)」。

誤解や偏見、老いや苦痛があっても自分らしく生きる人たちに勇気を、社会に気づきを与えるアイデアがちりばめられていた。

その中でもLGBTをはじめ、ジェンダーセクシュアリティをテーマにした展示も多く収集されていた。その中からいくつか印象的だったものを紹介したい。

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「大問題 愛は平等」(The Big Deal #EqualLove)/シドニー・ゲイ&レズビアンマルディグラ 

ある一家の誕生日パーティ。皆バーベキューソースをかけている中、突然息子が立ち上がり「僕はトマトソース派なんだ」と打ち明ける。驚愕する家族、激昂する父。しかし、父は思い悩んだあと息子を抱きしめる。
この映像の秀逸な点は、トマトソース派であることをカミングアウトした息子のとなりにいる同性のパートナーの存在が、特に違和感のない日常の風景として描かれている点だ。ラストを締めくくるメッセージは「ささいな違いを大きな問題にすべきじゃない」。

プラウドワッパー」(PROUD WHOPPER)/バーガーキング

バーガーキングがサンフランシスコのPRIDE PARADEに合わせて実施したキャンペーン。販売された「Proud Whopper」についてお客が中身を聞いても、店員は「わかりません」の一点張り。食べてみるといつものハンバーガーと違いがわからない。ところが、食べ終えると包み紙には「We are all the same inside(私たちみんな中身は同じ)」の文字が。その人を包むものが何であれ、みんな同じ人間だというメッセージだった。

この性を生きる。/東海テレビ放送

性の多様性をテーマに東海テレビが制作した映像。セクシュアルマイノリティの当事者やその家族へのインタビューをまとめたもの。

「残されなかった思い出」(Nobady’s Memories)/PFLAGカナダ

古いホームビデオのような結婚式の映像がいくつも流れてくるが、これらは全て架空の映像だ。もし同性婚があったら残されたであろう「思い出」を描いた作品。

「無限の勇気」(Unlimited Courage)/ナイキ

トランスジェンダーとして初めてアメリカ代表選手となったクリス・モージャーの挑戦を取り上げたナイキのキャンペーン動画。

「#もっと女性を」(#MoreWomen)/Elle UK

社会の要職に女性を増やすためのキャンペーン「#MoreWomen」。フォトショップを使って世界中のテレビ番組や政府の会議の写真から男性を消去してみたという映像だ。

 

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5月19日は、会場2階のライブラリーで、人が「本」となり読者と対話するヒューマンライブラリーも開催。トランスジェンダーやゲイの当事者ら3名が各々の人生や想いを語った。次回は6月23日(土)、視覚や聴覚に障害のある方々が登壇する予定だ。

炎上ではなく「灯火」を

展示はジェンダーセクシュアリティに関するもの以外にも、障害や年齢、人種、環境などさまざまなテーマに関する広告が展示されていた。思わず時間を忘れてしまうほど、ひとつひとつの広告作品に心動かされた。

炎上は一瞬とはいえ、痛みや怒りを感じる広告の方がどうしても記憶に残りやすい。しかし、最後までじんわりと心に残り続けるものは、きっとひとりひとりの灯火となって、その人のアクションへと繋がっていくのではないかと思う。

炎上ではなく、そんな灯火となるような広告が増えていって欲しい。

 

プロフィール

松岡宗嗣(Soshi Matsuoka)

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1994年愛知県名古屋市生まれ。明治大学政治経済学部卒。一般社団法人fair代表理事。オープンリーゲイ。LGBTを理解・支援したいと思う「ALLY(アライ)」を増やす日本初のキャンペーンMEIJI ALLY WEEKを主催。

30年の時を超えて「同性愛」を描く2つの映画『モーリス』『君の名前で僕を呼んで』が公開

異なる時代から「同性愛」を描いた二つの映画が今週公開される。一つは、今年アカデミー賞脚色賞を受賞した映画『君の名前で僕を呼んで』。そしてもう一つは、1987年に公開され、今年4Kで再上映されることとなった映画『モーリス』だ。

この二作品には『眺めのいい部屋』『日の名残り』等を手がけたジェームズ・アイヴォリー氏が携わっているという共通点もある。同氏は、前者の脚色、後者の監督をつとめている。
さらに、二作品が日本で公開されるのは、4月28日から始まる日本最大級のLGBT関連のイベント「東京レインボープライド」の直前だ。

こうした重なりは、果たして偶然だろうか。1910年代のイギリス階級社会の中での愛と苦悩を描いた『モーリス』と、1980年代の北イタリアの避暑地で交わされる淡い恋を描いた『君の名前で僕を呼んで』。公開年では約30年のひらきがあるこの両作品から、同性愛がどのように語られてきたか、語られるようになったか、その変化の片鱗を見ることができる。

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「モーリス」は、1910年代のイギリスを舞台に、ケンブリッジ大学で出会った二人の青年が、愛と伝統社会の狭間で揺れ動く姿を描いた作品だ。
イギリスの上流階級で、伝統社会の中に生きるモーリスとクライヴはケンブリッジ大学で出会い、互いに惹かれ合う。凡庸だったモーリスが次第に地位や名誉よりも愛をつかもうとしていく姿と、伝統や規範に縛られていくクライヴの様子が対比的に描かれている。

“普通”とされない、規範にのっとらない形の恋や愛は、これまで「禁断」や「真実」と表現されることが多かったのではないかと思う。しかし、この映画では、屋敷に仕える使用人の扱われ方や、”貧困"に対するモーリスの発言、女性へのまなざしなど、当時の社会構造についても考えさせられ、「真実」とは何か、「普通」とされていることを疑うきっかけも与えてくれる映画だと私は感じた。

君の名前で僕を呼んで」は、1983年の夏、北イタリアの避暑地を舞台に、17歳のエリオと、アメリカからやって来た24歳の大学院生オリヴァーとの淡い恋を描いた物語。どんな愛の形であっても、簡単に結ばれるわけじゃない。惹かれあうことや、すれ違うこと、同性間であっても異性間であっても、恋愛をする人はきっと経験したことのある、体の一番奥にある記憶を思い起こさせる作品だ。

美しい情景が際立たせる愛と葛藤

両作品ともに、映像の美しさから、それぞれの世界観へと引き込まれていく。『モーリス』を彩るイギリスの厳かな建築や庭園。夏の北イタリアで、芸術に囲まれた色鮮やかで暖かな風景を描いた『君の名前で僕を呼んで』では、海や湖など水辺の描写も相まって、エリオとオリヴァーを包み込む物語の瑞々しさを感じる。

どちらの作品でも「同性愛」は”普通”とされていないという点は共通している。1987年でも、2018年でも、描かれる状況が変わらないことは少々悲しい気持ちではあるが、登場人物の自分自身の想いの受け止め方、そして何より、主人公たちを囲む周りの人たちの反応は明らかに違いがある。

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「モーリス4K」公式ツイッターより

『モーリス』では、同性愛を否定的に捉えていたモーリスの気持ちが、クライヴとの出会いをきっかけに変わっていく。しかし、立ちはだかるさまざまなハードルを前に、「同性愛が病気なら治してください」と医者に懇願するシーンには胸をえぐられるような気持ちになる。

クライヴは同性愛を肯定しながらも、その関係はプラトニックであらねばならないという規範を抱えている。そして、お互いを引き寄せ合う力が大きくなるほど、伝統という重力によって二人は引き剥がされていく。ラストで見せるクライヴの表情には、一言では表せない感情が湧き上がるのを、きっと胸のうちに感じるだろう。

君の名前で僕を呼んで』の主人公、聡明な17歳、エリオのオリヴァーに対する感情は、性別の壁よりも、引き寄せあったり離れたりといったもどかしい想いそのものへの葛藤を描いている。対して、オリヴァーはエリオに対する感情に気づきながらも、信仰や規範から自分で受け入れられずにいる。それでも、”ひと夏”という逆らうことのできない時間的制約の中で、少しずつ惹かれあっていく二人の姿に、美しさを感じずにはいられない。

 

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君の名前で僕を呼んで」公式ツイッターより


『モーリス』の舞台となる1910年代のイギリスでは、同性愛が罪とされていた。実際に同性愛者が法的に罰せられ、社会的な信頼を失うシーンから、モーリスとクライヴの関係を阻む家族や社会の目は、現代からみると凄まじいものだ。

それに対して『君の名前で僕を呼んで』で描かれるエリオを見守る家族の姿は明らかにテイストが異なる。
特に父親がエリオに語りかける言葉は、一言も漏らすことなく、何度でも繰り返したくなるものだった。映画のイントロダクションに綴られる「何ひとつ忘れたくない」という言葉とともに、見たひとの心にきっと残り続けるのではないかと思う。

映画は私たちに”これから”を問いかける

現代の社会でも、同性間の恋愛にはまだまだハードルがある。しかし、恋をする人にとっては、誰かが誰かを想う感情は同性間か異性間かは関係なく、どの時代、どの場所でもシンプルに尊いものではないか。

さらに、きっとこれからの時代は、愛と呼ばれるもののかたち自体も、変容していくだろう。それは、今私たちが想像しているような枠では収まりきらないものかもしれない。

伝統や枠よりも自分の中に湧き上がる感情を受け入れるモーリスやエリオ、自身の想いに気づきながらも規範に逆らうことを恐れるクライヴやオリヴァー。そして、それぞれの関係を見つめる社会のまなざしの変化。

今、この二つの物語に触れた私たちが、彼らを、彼らの世界をどう見るのか。映画は私たちに”これから”を問いかける。

 

映画『君の名前で僕を呼んで』は4月27日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、新宿シネマリテ、Bunkamuraル・シネマ他全国ロードショー。映画『モーリス 4K』は4月28日(土)からYEBISU GARDEN CINEMA他全国順次上映。

 

プロフィール

松岡宗嗣(Soshi Matsuoka)

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1994年愛知県名古屋市生まれ。明治大学政治経済学部卒。一般社団法人fair代表理事。オープンリーゲイ。LGBTを理解・支援したいと思う「ALLY(アライ)」を増やす日本初のキャンペーンMEIJI ALLY WEEKを主催。

国立市でアウティング禁止を明記、筑波大はハラスメントとして対処。それでも残る課題を解決するために必要な2つのこと

国立市で4月1日、全国で初めて「アウティング禁止」が盛り込まれた条例が施行された。また、3月には筑波大学LGBTの対応ガイドラインを改訂。故意や悪意によるアウティングをハラスメントとして対処するとした。

こうした取り組みは、アウティングによりLGBTが居場所を奪われたり、プライバシーを侵害される危険から身を守ることができる点で画期的と言える。

しかし、国立市の条例を運用するにあたっては、注意すべきポイントが2つあるようにも思う。ひとつは、緊急事態など例外的な場面の想定の必要性。もうひとつは、「アウティング」による危険性そのものをなくそうという方向性。目指すべきは多様な性が「承認」された平等な社会であることを再確認したい。

制度によってアウティングを禁止することは、果たしてどういった効果・影響があるのだろうか。

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国立市WEBサイト/筑波大学LGBT等に関する筑波大学の基本理念と対応ガイドライン」より

アウティングとは「同意なしに第三者に暴露すること」

そもそもアウティングとは、本人の性的指向性自認を、本人の同意なしに第三者へ暴露してしまうことだ。

以前、私は「アウティングって何?」というアウティングに関する一枚の解説図を作成した。

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アウティングに関するポイントは以下の4つ

  1. そもそもアウティングとは?アウティングとは「本人の承諾なく、その人のセクシュアリティを第三者に暴露してしまうこと」です。
  2. なぜアウティングをしてはいけないの?→その人の居場所を奪ってしまったり、プライバシーの侵害につながる可能性があるから。
  3. カミングアウトされたらどうすればいい?→肯定的に受け止め、「誰に伝えているのか」「誰に伝えて良いのか」を聞いてみてください。
  4. 困ったときは自分だけで抱え込まず、相談しましょう。

国立市の条例で「アウティング禁止」、筑波大のガイドラインで「ハラスメントとして対処」

国立市で施行された条例は「国立市女性と男性及び多様な性の平等参画を推進する条例」その第8条2項「何人も、性的指向性自認等の公表に関して、いかなる場合も、強制し、若しくは禁止し、又は本人の意に反して公にしてはならない」という部分でアウティングの禁止が記載されている。

アウティング禁止が盛り込まれた背景には、一橋大学でゲイの大学院生がアウティングを理由に自死してしまった事件がある。

国立市の吉田徳史市長室長は「カミングアウトをしたら守られます、というように骨子案の中身がカミングアウトを前提にしたものになっているのではないか」というパブリックコメントがきっかけとなり、議論が始まったとインタビューで話している。

条例の中のアウティングに関するポイントは以下の3点。

  1. カミングアウトの自由が「個人の権利として保証される」。
  2. アウティングの禁止に加えて、カミングアウトを強制することも、カミングアウトをさせないようにすることも禁止。
  3. 条例では罰則規定はないため、アウティングが罪に問われる訳ではない。しかし、苦情処理の仕組みを設けており、市が適切な措置を講ずるとしている。

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筑波大学「LGBT等に関する筑波大学の基本理念と対応ガイドライン」より

一方、筑波大学で改訂されたガイドラインには、カミングアウトが「当事者の自己決定に属することを踏まえ、情報のコントロールに留意する必要がある」とした上で「(アウティングは)当事者に精神的苦痛を与えます。故意や悪意によるアウティングに対しては、本学はハラスメントとして対処します」と明記している。

アウティングを禁止でも残る課題を解決する

まだまだLGBT等への差別や偏見が残り、さまざまな性的指向性自認のあり方に対する認識が広がっているとは言えない現状で、セクシュアリティを勝手に暴露されてしまうことは、圧倒的多くの場合、当事者の居場所を奪ってしまうことに繋がる恐れがある。

学校でのいじめや、家族からの勘当、職場に居づらくなる等に発展し、最悪の場合、自死に至ってしまうケースもあるのだ。

アウティングの中には、善意で伝えてしまった場合もあるだろう。しかし、勝手に伝えた相手に理解があるかどうか定かではない中、アウティングはやはり危険性が高い行為だ。

こうした社会の現状の中、国立市の条例や筑波大学ガイドラインは意義のあることだと私は考える。制度によってアウティングを禁じることで、当事者は危険から身を守ることができるし、社会に対して「アウティングはいけないことだ」というメッセージを広げることができる。アウティングを未然に防止する効果もあるだろう。

しかし、同時にアウティング禁止にあたっては、緊急事態など例外的な場面の想定が必要になるのではないかと思う。

実際に私が学校現場で伺ったことのあるケースでは、生徒が養護教諭にカミングアウトし悩みを相談するも、養護教諭が対応できず、他の教職員にも相談できなかったという事例がある。結果的に生徒は自殺念慮を抱くほどだったため、チームでの緊急介入が必要だったが、名前を出さず個人情報に注意しながら他の教職員に相談したとしても、学校という狭い環境の中、それによってセクシュアリティがバレないという保証は難しいだろう。

「誰にどういう理由で共有するか」を本人にしっかり説明し、本人の同意が得られればアウティングにならないが、差別や偏見を恐れる生徒自身が、意を決して何とか養護教諭にカミングアウトしたその直後に、他の教職員へのセクシュアリティの伝達をそう簡単に承諾できるかと言えば、それは難しいように思う。

このように、現場のカミングアウトとアウティングをめぐる課題は繊細かつ複雑な事例も少なくない。

ただ、制度としてのアウティングを禁止するにあたって生じる課題への対応は、筑波大学の事例は参考になるだろう。

実態に照らしたアプローチと、目指すべき社会のあり方

原則アウティングは禁止でありつつも、今挙げたような「緊急性」がある場合や、専門機関の相談などにおいては例外であるという解釈を、運用にあたって定めればよいのではないか。

筑波大学ガイドラインでも、当事者に対しても、カミングアウトを受けた側に対しても「守秘義務のある相談窓口に相談できる」ことを明記していることは非常に重要だと思う。国立市の条例も、このような解釈を定めて通知するのはどうだろうか。

その他にも、例えば24時間の電話相談窓口「よりそいホットライン」では、4番がセクシュアルマイノリティ専用の相談窓口になっている。「アウティング」を理解しているからこそ悩みを抱え込んでしまう場合に備え、こういった電話相談の利用を事前に周知しておくことも一つの方法だ。

さらに、特にメディアに対しては「アウティングを禁止する」条例が施行されるにあたって、今こそ”本来目指すべき方向性”、すなわちSOGIに関する差別や偏見が「アウティング」という状況を生じさせている、というそもそもの前提を見失わないための情報発信も必要になってくるのではと思う。

もし、LGBTの存在があたり前に身近に感じられていて、例えばセクシュアリティが自己紹介でいう「星座」や「好きな食べ物」などと同じくらい”言っても言わなくてもどっちでも良いようなもの”になっていれば、アウティング自体が危険なものではなくなる。概念すらなくなるかもしれない。(もちろん、それにはまだまだ長い道のりがあるため、さまざまな手法で取り組みが必要であることは忘れてはならない)

国立市では「性の多様性を認め合い、ありのままで地域で暮らす社会を実現するため、この条例が土台になれば」と話しているように、実態に照らした対応として「アウティングの禁止」が求められる時こそ、大元である差別や偏見の構造を変えていくことを忘れてはならないと思う。

アウティングによって被害者も加害者も生まないよう、国立市の条例や筑波大学ガイドラインのように「アウティングの禁止やアウティングをハラスメントとして対処する」と明記しつつ、それに連なる細やかな規則やサポート体制を整えること。そして、セクシュアリティの公表が何のメリットもデメリットもなくなるよう、フラットな社会を目指していきたい。

 

訂正(2018年4月9日)

筑波大学ガイドラインではアウティングの「禁止」は明記しておらず、「故意や悪意によるアウティングに対しては、本学はハラスメントとして対処します」と記載されています。タイトル等で国立市の条例、筑波大学ガイドラインともに「アウティング禁止を明記した」と誤解を招く表現をしてしまいました。おわびして訂正いたします。

 

プロフィール

松岡宗嗣(Soshi Matsuoka)

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1994年愛知県名古屋市生まれ。明治大学政治経済学部卒。一般社団法人fair代表理事。オープンリーゲイ。LGBTを理解・支援したいと思う「ALLY(アライ)」を増やす日本初のキャンペーンMEIJI ALLY WEEKを主催。

Twitter @ssimtok 
Facebook soshi.matsuoka 

大学を卒業しました。就職はせず「一般社団法人fair」を立ち上げます。

こんにちは、松岡宗嗣です。1年間の休学を挟みましたが、先日、明治大学を卒業しました。

今後について報告ブログを書こうと思います。少し長くなりますが、最後までお付き合いいただければ幸いです。

報告は大きく3つあります。

  1. 明治大学を卒業しました。
  2. 一般社団法人fairを立ち上げます
  3. 個人でデザインもやります

 

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明治大学を卒業しました

2013年に名古屋から上京し、明治大学政治経済学部に入りました。最初の方は人間関係がうまくいかず寮生活はすぐにギブアップ。新しいことを始めようと思って入ったサークルもなんとなく合わなくて行かなくなりました。

一方、Twitterでゲイの友達と多く出会うことができて、大学以外での生活は充実していました。マイノリティにとってインターネットの力は偉大だと思います。多分この頃一生分遊び倒しました。笑

転機となったのはカミングアウトでした。

高校卒業後に地元の友達にゲイであることを伝え、受け入れてもらえたこともあり、大学で出会った人にも徐々にカミングアウトするようになりました。

思い返すと、上京してすぐの居心地が悪いと感じていたコミュニティでは、自分の居場所はここにないと無意識に感じていたのかもしれません。

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新たな出発点となったReBit

LGBT」という言葉を知ったのはこの頃でした。セクシュアリティを伝える/伝えないという選択ができないのは社会の側に問題があるのでは。もしLGBTと呼ばれる人たちの存在を知らないなら、見えていないなら、自分を媒介にして少しでも見えるようにできれば。そんなことを思うようになりました。

そして、明治大学にあるLGBTの学生サークルに入り、2014年に初めて東京レインボープライドに参加。そこでReBitに出会いました。

学校に行ってLGBTについて授業をする。自分の小中高校時代を思い出して、次の世代の人たちにとって、セクシュアリティが生きる上でハードルにならないようにと願い、参加するようになりました。

仲間との出会いにも恵まれ、ReBitでの濃密な約3年間は、多くの出会いときっかけを得ることができた新たな出発点になりました。

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最初のチャレンジとなったMEIJI ALLY WEEK

2015年の12月に開催したMEIJI ALLY WEEKも、自分の中の大きなきっかけのひとつでした。
LGBTは居ないのではなく見えていない」のと同時に、「LGBTについて理解したい、支援したいと思う人も見えていない」。それなら「ALLYを可視化しよう」と、明治大学情コミ学部ジェンダーセンターの田中先生に相談した所からはじまりました。

3人からスタートしたチームも最終的に10人程に。初挑戦したクラウドファンディングでは多くの方にご支援いただきました。メンバーには迷惑をかけてばかりだったなと思いますが、田中先生はじめ最後まで一緒に駆け抜けてくれた仲間に感謝しかありません。

最初はLGBTを支援する人をALLYと呼んでいましたが、当事者どうしでも、さらにはジェンダーセクシュアリティ以外の"違い"についても味方(ALLY)となることはできるのではと。「誰もが誰かのALLYになれる」この言葉はいまでも大事にしている軸になっています。

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社会の見え方が変わったSmartNews ATLAS Program

SmartNewsNPO支援プログラム「SmartNews ATLAS Program」の第1期にReBitのスタッフとして参加。その後、望月優大さんに誘っていただきATLASの運営に携わることになりました。
望月さんの後ろをついていくのがやっとではありましたが、最初の頃の自分を思い返してみると、少しは成長したかな...(今もまだまだですが)。

約2年間で自分の中の思想的な部分、特に社会の見え方が変わってきたように感じています。ひとえに望月さんの影響が大きく、望月さんとの出会いは人生の分岐となる大きなきっかけの一つとなりました。ギブしてもらうことばかりなので、これから恩返しができたらと思っています。

 

一般社団法人fairを立ち上げます

長くなりましたが、これからの話をしたいと思います。

まず、大学を卒業した私ですが、就職はしないことに決めました。少しだけ就職活動もして葛藤もありましたが、素直にやりたいことをやる。自分の想いを信じて進むことを選択しました。

立ち上げる団体の名前は「fair」です。「どんなジェンダーセクシュアリティであっても、フェアな社会を作りたい」そんな願いを込めています。

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その背景には、社会がセクシュアルマイノリティにとってフェアではない現実があります。

LGBTの約6割が学校でいじめを経験し(※1)、同性愛や両性愛者の約4割、トランスジェンダーの約7割が就職時に困難を感じています。(※2)

例えば、

  • 就活で結婚などの話題からカミングアウトしたところ、面接を打ち切られた
  • 飲み会で上司から『お前はホモか?気持ち悪い』と怒鳴られた
  • 外国人の同性パートナーが日本に来るとき、法的なパートナーではないため配偶者の在留資格を得られなかった
  • 法的なパートナーではないため特別養子縁組を受け入れることができなかった
  • 会社の設備が男女分けしかなく、自分の望む性別での利用ができなかった
  • 医療機関の受付で戸籍上の名前で呼ばれることから受診しづらくなった
  • 公的書類で本人確認が必要なときに、身分証の性別と見た目の性別が一致しないことからトラブルが起きた
  • 性的指向性自認を理由にいじめを受け、就労困難となり生活保護を申請したが、窓口で『それくらいの理由で就労できないわけがない』と言われ、申請を断念した(※3)

 

など、教育や就労、医療、公共サービスなど、さまざまなライフステージのさまざまな領域で、LGBTを取り巻く課題は山積しています。

もちろん当事者の中には、自分は困っていないと感じる人もいると思いますが、LGBTであることが要因で困難を感じる人がいるとき、社会のあり方として、困っている人に標準をあて、サポート体制を整えることが必要だと私は思います。

例えば、性的指向性自認を理由とした差別を解消する法律や、同性間のパートナーシップを保障する法律。トランスジェンダーの中には医療的アプローチを望む人も望まない人もいるため、戸籍の性別を変更する際の手術要件の撤廃などが求められます。

さらに、制度を整えても、運用するひとや社会の意識が変わらなければ差別や偏見はなくならない。LGBTが身近な存在であるという認識を広げるためには、当事者の存在を可視化していく必要もあると考えています。

どんなジェンダーセクシュアリティでも、フェアな社会をつくるために、「Equality:平等」な制度を整え、存在を「Visibility:可視化」する。

この2つの軸をもとにfairは活動をしていきます。

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「関心をあつめる」ための3つの事業

課題解決のためのアプローチはさまざまありますが、fairでは「関心をあつめること」を切り口に3つの事業を展開していく予定です。

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  1. Media:記事や動画などを通じて情報を発信していきます。
  2. Campaign:より多くのひとを巻き込むため、キャンペーンを設計していきます。
  3. Conference:課題と解決方法を考えるために、シンポジウムなどを実施していきます。

これまでもブログやハフポストを通じて、個人で情報を発信してきましたが、今後はより多くの人を巻き込んで情報を発信していきたいと思っています。

「Fair’s fair(フェアにいこうよ)」という言葉がありますが、「フェア」であろうと思うひとりひとりの気持ちが、誰もが生きやすい社会につながると私は信じています。

もちろん、私ひとりではまだまだ力不足です。知識や経験も足りていないところばかりです。それでも、もし少しでもこの想いに共感し、関心を持っていただける方がいたら、ぜひ応援していただけると幸いです。一緒に活動したいと思う人がいたら、ぜひ声をかけてください。

なかなかいつも一歩踏み出すのに時間がかかる私ですが、丁寧に進んでいけたらと思います。どうぞよろしくお願いします!

 

個人でデザイン事業もやります

最後にもうひとつだけ。

以前から個人でデザインを担当させていただく機会が増えました。

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SmartNews ATLAS Programで支援した「スタディクーポン・イニシアティブ」では、全てのデザインを担当しました。

f:id:soshi-matsuoka:20180329193205j:plainスマートニュースでも様々なイベントのクリエイティブを作ったり、

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チャンス・フォー・チルドレンの東北応援月間キャンペーンのクリエイティブを担当したり、

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キズキ共育塾のパンフレットを制作させていただきました。

株式会社コモンセンスの望月さんとともに、NPOの情報発信を引き続きお手伝いしています。もし頼みたい!ということがあれば、ぜひぜひご連絡お待ちしています!

 

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ここまで読んでいただきありがとうございます。

未熟ながら、チャレンジを積み重ねていきたいと思っています。温かく見守っていただけると幸いです。

どうぞよろしくお願いします!

 

2018年3月29日

松岡宗嗣

 

 

※1 宝塚大学看護学部日高研究室 LGBT当事者の意識調査「REACH Online 2016 for Sexual Minorities」(2016)
※2 (c) Nijiiro Diversity, Center for Gender Studies at ICU 2016
※3 LGBT法連合会 http://lgbtetc.jp/pdf/list_20150830.pdf

 

プロフィール

松岡宗嗣(Soshi Matsuoka)

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1994年名古屋市生まれ。オープンリーゲイの大学生。LGBT支援者であるALLY(アライ)を増やす日本初のキャンペーン「MEIJI ALLY WEEK」を主催。SmartNews ATLAS Program

Twitter @ssimtok
Facebook soshi.matsuoka

「オネエは裾野が広がりすぎてしまった」ブルボンヌとサムソン高橋が昨今のLGBT・ゲイシーンを語る

東京、渋谷区神宮前二丁目にあるアジアンビストロ「irodori」が3月に閉店する。LGBTのコミュニティスペース「カラフルステーション」を併設しているirodoriは、昨今のLGBTを取り巻く社会の変化の中心地とも言える場所だ。閉店に向け開催される全6回のクロージングイベント、LGBTのこれまでとこれからを考える「カラフルトーク」をレポートする。 

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第6回のタイトルは「オネエとホモとLGBTとあなた」。ゲイコミュニティの中でも、それぞれの立場を異にする3名が、昨今のLGBT、特にゲイシーンについてどう感じているのか、率直な思いを語りあった。

登壇したのは、テレビ等でも活躍する女装パフォーマーのブルボンヌさん、著書も多数執筆している紀行ライターのサムソン高橋さん、そして、LGBTに関する啓発や当事者のコミュニティづくりを手がけているグッド・エイジング・エールズ代表の松中権さん。

参加者から3名に話してほしいワードを募集し、ランダムに選択。例えば「ホモ」といった言葉は差別的とされているが、なぜ差別的なのか、そもそもいつから使われるようになったのか、当事者があえて使い続ける理由はなにかなど、各々の考えを語った。

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左から松中権さん、ブルボンヌさん、サムソン高橋さん

裾野が広がりすぎた「オネエ」という言葉

ブルボンヌさんは「オネエ」というキャラクターで仕事をしているという立場から、その言葉について語った。

「もともとオネエという言葉は、ゲイシーンの中で女性性を表す言葉でした。例えばゲイバーで飲んでいるフェミニンな仕草の人がいると「あの人はオネエだ」みたいな」。

しかし、2006年あたりから放送されたバラエティ番組「おねえ★MANS」で、美容などのジャンルのプロフェッショナルなオネエを集めたことがきっかけで、一般に言葉が広がりはじめた。

「でも、そのときに巻き込まれたのがトランスの方で、女性性を笑わせるつもりがない人も、笑わせるためのキャッチーなキャラクターかのように「オネエ」と言われ、イメージに巻き込まれていってしまった。

最近も裾野が広がりすぎていて、女性的な表現をしていないゲイのこともオネエと言われるし、りゅうちぇるとか尾木ママとか、表現が女性的な異性愛の男性も言われてしまっていますよね」。

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昔は「ホモ」と「ゲイ」のイメージは逆だった

松中さんから「ホモやゲイという言葉についてどう思っていますか」という問いに対し、サムソン高橋さんは「”ゲイ”はしゃらくさい」。

「70年代にゲイボーイという言葉あって、それは今でいう『オネエってぽい』というイメジがあった。むしろゲイとホモってイメージが逆だったんですよね」。

ゲイという言葉が使われるようになり「ゲイはみんなアートにうるさくて、ソフィスティケイテッドだみたいな感じに語られて、わたしは『サムソン』というゲイ雑誌出身なので、それに対するアンチテーゼで『ホモ』と25年間言い続けていました」。

松中さんは、初めてホモという言葉を知ったのは、昨年話題になった「保毛尾田保毛男」がきっかけだった。

「ホモという言葉はネガティブな印象だったので、そのときに『ゲイって素敵な言葉なんだ』と思いました」。

世代によって言葉の受け取り方は様々だ。

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LGBTという言葉が、全てを包括して、便利かつクリーンっぽい言葉として使われてきたよね」と話すブルボンヌさん。

松中さんによると、LGBTが日本で使われはじめたのは2008年とか2009年あたり。ちょうど「オネエ★MANS」と時期が似ているという。また、登壇者の3名ともLGBTという言葉を頻繁に聞くようになったのはここ3〜4年だと話す。

ブルボンヌさんは「オネエというバラエティ向きな単語と、LGBTというアクティビズム向きの言葉が10年くらい前に花開いた感じなのね。全部の単語が、昔はそうでもない時期があったけど、最近はみそがつきはじめた部分もあるのかな」。

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保毛尾田保毛男」以降、潮目が変わった

松中さんが「ホモ」という言葉を知ったきっかけとなった「保毛尾田保毛男」についても話が及んだ。

保毛尾田保毛男とは)フジテレビの番組「とんねるずのみなさんのおかげでした」で、約30年前に人気だったとんねるず扮するキャラクター。昨年9月に放送された30年スペシャルで「保毛尾田保毛男」が再登場。LGBTについて認知が広がりつつある中、同性愛者を笑いのネタとして差別的に扱ったことに対して批判が起き炎上した。その後フジテレビ社長が公式に謝罪したが、当事者の中でも賛否は分かれた。

サムソンさんは、当事者の中でも保毛尾田保毛男を受け入れた人と受け入れれなかった人で意見が分かれているのを指摘した上で、「今の時代にひどいというのはわかるんだけど、あれを抹殺しちゃうのはちょっと寂しい。ただ、(松中)権ちゃんとか、40歳前後の人はちょうど第二次性徴期の頃で自分のアイデンティティが確立されていないときにあれを見たらそりゃ傷つくのかなと思う」。

ブルボンヌさんは「実は30年前では、当時ご存命だった岸田今日子さんが保毛尾田保毛男のお姉さん役で出てたの。コントのシリーズは幅広くて、その中で、いじめられるほもおちゃんをいつもお姉ちゃんが味方をして助けていた。

もちろん保毛尾田保毛男のキャラクターは嫌なステレオタイプを生むんだけど、現実(いじめなど)も実際あった時代に、それを描いた上でその人を守ってくれる家族も描いていて、コンテンツそのものがすごい害悪だったかというと、それは違う。だから、その部分は守りたかったかな」。

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「痛みを訴えるやりかたは社会運動論みたいな枠で考えたらいろんなやり方があると思う」と話すブルボンヌさん。

「(保毛尾田保毛男以降)ヤフコメとかで『またこいつらが文句言って』と潮目が変わってきたように感じます」と、対立が極端になってきたと感じている。

「怒ることはもちろん必要なんだけど、怒られて謝っている人を見た人が、謝っている人の味方になりたくなる反発の感情も生み出してしまうよね」。

保毛尾田保毛男の一件から、松中権さんらはフジテレビとの対話を進めた。それに関連して、ブルボンヌさんが出演した番組ではNGワードのリストが渡されたそう。

「そこに『ストレート』という言葉もダメと書いてあったの。当事者から『俺たちは曲がってんのか』と抗議があったからみたいなんだけど。

でも『まっすぐ』って全然良くなくない?くねったりとかいろいろ動いていった方が良いし、『まっすぐ』ってむしろちょっと小馬鹿にしている感じじゃんって思うんですよね。

ジャズとかで、センスがない人を『頭でっかち』みたいな意味で『スクエア』と言うんだけど、そういう風に引っ掛ければ、ストレートという言葉が必ずしも『良いまっすぐ』じゃないって、嫌味で返せると思うのよね」。

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一年に一度くらい、一緒に集まっても良いんじゃないか

登壇者3名が異なるように、ゲイと呼ばれる人の中でもその立場や考え方は様々であり、LGBTともなると、それは尚のことだ。

イベントで最後に取り上げられたトピックは「パレード」。

irodoriは、LGBTやいろんな人が集う場を作りたいという気持ちで始まったコミュニティだが、同じように「東京レインボープライド」も、考え方や意見は違えど、1年に1度、多様な性のあり方を祝福する場として毎年開催されている。

今年は5月5日(土)、6日(日)に開催される東京レインボープライドのテーマは「LOVE & EQUALITY 〜全ての愛に平等を〜」だ。

以前は東京レインボープライドに少し懐疑的だったというサムソン高橋さん
「昔はそうだったけど、今はもう、みんな1年に1日くらいは、一緒に集まっても良いんじゃないかと。LGBTと括ってはいるけどそれぞれ別ものだし、こういう場でこそみんなが繋がったら良いのではと思います」。

ブルボンヌさんは「ゲイとトランスでも、社会がこうなってほしいというテーマは別々なものもいっぱいあるように、みんな願いは違うし、当事者の中でももめることはよくある。
でも、この日だけはLGBTという言葉にカチンとくる気持ちを抑えていただいて、七夕みたいに思ってもらって、お互い巡りあうのも良いのではないかと思います」。

irodoriクロージングイベント「カラフルトーク」過去のレポート

第1弾「LGBTとスポーツの未来」

第2弾「ゲイアートの巨匠・田亀源五郎さんによるトークショー」 

第3弾「カラフル家族会」

第4弾「ダイバーシティと街づくり」 

第5弾「LGBT炎上問題」

 

プロフィール

松岡宗嗣(Soshi Matsuoka)

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1994年名古屋市生まれ。オープンリーゲイの大学生。LGBT支援者であるALLY(アライ)を増やす日本初のキャンペーン「MEIJI ALLY WEEK」を主催。SmartNews ATLAS Program

Twitter @ssimtok
Facebook soshi.matsuoka

LGBT炎上問題から考える「炎上の中からこそ、世の中のためになることを見つける」とは

東京、渋谷区神宮前二丁目にあるアジアンビストロ「irodori」が3月に閉店する。LGBTのコミュニティスペース「カラフルステーション」を併設しているirodoriは、昨今のLGBTを取り巻く社会の変化の中心地とも言える場所だ。閉店に向け開催される全6回のクロージングイベント、LGBTのこれまでとこれからを考える「カラフルトーク」をレポートする。

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第5弾のテーマは「LGBT炎上問題」。LGBTについての認知が広がるにつれ、多様な性に対する理解を広げるための活動や、LGBTの人たちがより生きやすくなるための施策やサービスなども増えた。

しかし、その中には時に的外れとなってしまうものや、本来の意図と違った形で世にでてしまうもの、ある人にとっては良くても一方では誰かを傷つけてしまっているものなどもあり、批判を呼ぶこともある。

LGBTイシューに限らず日々「炎上」と呼ばれる事象は起きているが、残念ながら一過性となってしまうものが多いように感じる。時間が経ち、何が問題だったのかをもう一度考えたり、反省し次にどう活かすことができるかについて議論する機会はなかなか多くない。

今回のイベントでは、以前LGBTに関することで「炎上」を経験したメンバーらが登壇。後述するが、「カラフルステーション/グッドデザイン賞」や「人権マーケット」発言などで多くの批判を集めてしまった、irodoriのオーナーでトランスジェンダー活動家の杉山文野さん。「おか米」で物議を醸した株式会社G-pit net works代表取締役井上健斗さんと、ドラァグクイーンのマーガレットさんの3名が、昨今のLGBT炎上問題を振り返った。

イベントではひとつひとつの問題について触れていたが、この記事ですべてを取り上げることは難しいため、それぞれの問題の経緯についてをまとめ、イベントで特に議論された「言葉」というトピックについて、登壇者のマーガレットさんの発言を抜粋して取り上げたい。

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左から井上健斗さん、マーガレットさん、杉山文野さん。

12件の炎上問題

取り上げたトピックは、炎上と呼ばれるものから、炎上というよりは"議論になった"というものまでを含め、以下の12件。それぞれについて簡単に説明する。

  1. おか米
  2. 保毛尾田保毛男
  3. カラフルステーション/グッドデザイン賞
  4. 渋谷区トイレマーク
  5. 人権マーケット
  6. LGBT検定
  7. LGBT人権講師/高額セミナー
  8. ゲイエリート
  9. 広辞苑LGBTの説明
  10. 宮中晩餐会への同性パートナー出席反対
  11. 東京レインボープライド2017 消えたプラカード
  12. 同性パートナーシップ解消
1.おか米

「おか米」は、登壇者の井上さんが経営する株式会社G-pit net worksが、トランスジェンダーの就労支援のため、農地を借り、当事者を集めつくったお米のこと。おかまやおなべが作ったお米だから「おか米」というネーミングについて、「おかま」という、これまで差別的に使われてきた言葉を使ったことや、FtMトランスジェンダーの井上さんが「おかま」という名前を使うのは他虐的だ、など批判が殺到した。現在は「農家まっつら」という名前に変わり販売を継続している。

2.保毛尾田保毛男

フジテレビの番組「とんねるずのみなさんのおかげでした」で、約30年前に人気だったとんねるず扮するキャラクター「保毛尾田保毛男」が再登場。LGBTについて認知が広がりつつある中、同性愛者を笑いのネタとして差別的に扱ったことに対して批判が起き炎上した。その後フジテレビ社長が公式に謝罪した。当事者の中でも賛否は分かれた。

3.カラフルステーション/グッドデザイン賞

2015に渋谷区でスタートした、通称「パートナーシップ条例」がグッドデザイン賞を受賞することになった。しかし、その受賞主体がirodoriに併設されている「カラフルステーション」になってしまったことに対し「区の条例なのに、受賞主体が民間の一団体というのはどういうことか」と批判が起こった。今回のイベントの登壇者でもある杉山文野さんらが経緯を説明し、グッドデザイン賞受賞から辞退した。

4.渋谷区トイレマーク

渋谷区庁舎のだれでもトイレに、レインボーで色付けられた男女半身ずつの体のピクトグラムが追加された。「トランスジェンダーは男と女の間なのか」「レインボーをつけることによってむしろセクシュアリティがバレてしまう」「そもそもトイレで啓発が必要なのか」といった批判が起こった(渋谷区庁舎ではないが、こうしたトイレについて、メディアで「LGBTトイレ」と表現されてしまったこともあり「本来トイレに困りやすいのはトランスジェンダーなのに、LGBも一緒に扱われてしまっている」「LGBTはこのトイレだけを使えというのはおかしい」などの批判もあった)。渋谷区庁舎以外でもトイレサインを中心にトイレ利用に関する問題は議論されている。

5.人権マーケット

2017年の東京レインボープライドの際、登壇者の杉山文野さんが毎日新聞インタビューの中で、LGBTは「マーケットになって、人権を得られる側面もある」とコメント。これに対して「お金にならないと人権は得られないのか」と批判が殺到した。すべての人が生まれながらにして基本的人権を持っており、杉山さんが伝えたかった意図として「LGBTは別の世界の人ではなく、いち生活者としてそこにいることをわかってもらいたかった」と話す。

6.LGBT検定

日本セクシュアルマイノリティ協会が始めた「LGBT検定」。LGBTについて学んだことを証明するものとして作られた検定で、かかる費用は約4万円だ。これに対して「"私はLGBTを理解しました"と検定を受けた人に言われても信じられないし逆に怖い」などの批判が起きた。また、「セクシュアリティについての考え方や、LGBTという言葉が生まれた歴史的経緯などについての理解度を測る検定は良いのでは」という意見もあった。

7.LGBT人権講師/高額セミナー

LGBTについての講演活動を行う「人権講師にならないか」と、当事者が高額セミナーに誘われトラブルが起きた。費用は高くて200万円と、当事者の弱みにつけこむ悪質商法だと批判が殺到した。

8.ゲイエリート

カミングアウトフォトプロジェクト「OUT IN JAPAN」で撮影された、大手企業で働くゲイの方々の集合写真に、撮影した写真家が「The Gay Elite」と書いてWEBで公開。これに対して、「お金を持っていないと社会に受け入れられないのか」、「高所得なゲイの男性だけを取り上げることで、経済的な理由で社会的に弱い立場にいる当事者を見えなくさせている」といった批判が起きた。「The Gay Elite」という文言が入っていないもともとの写真は六本木アートナイトでの展示会や、WorkWithPride2016等で展示された。

9.広辞苑LGBTの説明

広辞苑が10年ぶりに改訂。その中で「LGBT」が新たに追加された。しかしその内容は「レズビアン、ゲイ、バイセクシャルトランスジェンダーの頭文字。多数派とは異なる性的指向を持つ人々。GLBT」となっていた。性的指向についてのマイノリティがLGBで、性自認についてのマイノリティがTであり、この説明は間違いだと批判が起きた。岩波書店は後日これを謝罪し、WEB上のみで解説文を訂正した。

10.宮中晩餐会への同性パートナー出席反対

自民党竹下亘総務会長が、宮中晩餐会への同性カップルの参加は「私は反対だ。日本国の伝統には合わないと思う」と発言し物議を醸した。その後、河野太郎外相や安倍晋三首相は外務省の行事において、同性パートナーを配偶者として迎えるよう指示した。

11.東京レインボープライド2017 消えたプラカード

東京レインボープライドが発行する雑誌「BEYOND」で、LGBTに関する活動を行う数名が、それぞれの伝えたいメッセージを書いたボードを掲げて表紙を飾った。しかし、そのうちの一名だけボードを持たない写真が起用されたことで「メッセージが意図的に削除された」と誤解を招き批判が集まった。主催側はデザイン上のバランスを考慮しての判断だったが、活動する人にとってアイデンティティとも言える一番伝えたいメッセージよりもデザインを優先したことを謝罪し修正した。

12.同性パートナーシップ解消

渋谷区のパートナーシップ証明書第一号を取得した、東小雪さん増原裕子さんカップルが、2017年12月にパートナー関係を解消した。二人は公式にWEBサイトで解消を発表したが、これに対して「社会にメッセージを伝えるために大々的に結婚式を行い、証明書も発行しているのに、解消するときは会見などで発表しないのか」という意見や、「同性カップルも異性カップルも、結婚する人もいれば離婚する人もいる。他人がとやかくいうことではない」という意見など議論がおきた。

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それぞれのトピックには、もちろんここで取り上げきれないさまざまな角度からの意見があった。さらに、単純なミスや思惑の入れ違いから、一言では語れない複雑な背景の上で起きている問題まで幅広い。

すべての問題について再検証するためには、本来ひとつひとつの問題の構造や、特権性などについて考える必要があるだろう。

「言葉」は「車」と同じ

今回、イベントの中で特に議論されたのは「言葉」について。

SNSの普及により、これまで見えてこなかった声が届くようになった。これはLGBTをはじめとするマイノリティにとって非常に強い味方となった。

それと同時に、あらゆる人から広く社会に発信される「言葉」は、本人の意図しないように受け取られてしまうことも多い。

登壇者の一人、マーガレットさんは「当たり前ですが、言葉というのは受け手によって様々な解釈がなされます」と話す。

「◯か×かみたいな、言葉を使って良いのか良くないのかみたいなところに論点が集中しちゃうけど、言葉はすごく曖昧で多面性がありますよね。

最近、言葉は『車』と一緒じゃないかと考えています。車自体が問題なのではなくて、車にどんな人が乗っていて、どこ向かって走ろうとしているかの方が問題。

交通事故がおきた時に『車なんてまかりならん!』となってしまうのではなく、『交通ルールがあるじゃん』とか、『交通ルールはないけど、このまわりは小学校が多いからもうちょっとスローで走ってくれると嬉しいな』という所で考えたい。

0か100かみたいになってしまうのではなく、その背景にはお互いどんな状況があるのか、月並みですけど『行間を読む』という能力が求められているのかなと思います」。

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傷つけない笑いもある。何が問題だったかを見直したい。

会場の参加者からは、ひとつひとつの問題についてもっと検証を重ねつつ、どういった表現がよかったのかを考えたいという提言があった。

「例えば、保毛尾田保毛男の件は、番組中に『あくまでの噂なの』といつものネタをやって、さらに、隣にいたたけしが『うちの近くに変なおじさんがいて...』みたいな話しをしてしまい、『やっぱり男性同性愛者をそういう特徴を持っているんだ』という話しになってしまっていました。

この問題に対して、面白いなと思ったツイッターの意見で、『これだけ時代が進んできたから、保毛尾田保毛男が『あくまで噂だったんだけど、海外で同性婚したんだ』みたいなことを言ったら、世間の受けとり方も全然違ったかもしれない。

笑いというのは、傷つけない笑いもできると思います。何が問題だったのかひとつひとつ見直して、もっと建設的な議論を続けていくことが大事だなと思います」。

最後にマーガレットさんは「私は基本的に人間はたいして変わらないと思うんです。違う点に着目して分断していくという発想よりは、違ってあたりまえの世の中で、違う人間同士の中に、何か共通するものを見出して繋がっていくほうがよろしいのかではと私は思います。その違いを超えたところで、共通の言葉を生み出すという努力が必要なのかなと。

運動でも何でも、言葉を使うことは、すべて予定調和で正しいこと正しくないこと分けられるものはないわけで、どんな”余分なもの”を拾い上げられるか。

ただ単に炎上して終わりというのはつまらないですよね。炎上の中に、何か自分にとって良いこと、世の中や人のためにとって良いことをいくつも見つけられたらなと思っています」。

 

irodoriクロージングイベント「カラフルトーク」過去のレポート

第1弾「LGBTとスポーツの未来」

第2弾「ゲイアートの巨匠・田亀源五郎さんによるトークショー」 

第3弾「カラフル家族会」

第4弾「ダイバーシティと街づくり」 

 

プロフィール

松岡宗嗣(Soshi Matsuoka)

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1994年名古屋市生まれ。オープンリーゲイの大学生。LGBT支援者であるALLY(アライ)を増やす日本初のキャンペーン「MEIJI ALLY WEEK」を主催。SmartNews ATLAS Program

Twitter @ssimtok
Facebook soshi.matsuoka

2020東京五輪までに、LGBTへの差別をなくす「法律つくって」第2回レインボー国会が開催

どの性別を好きになるか/ならないか(性的指向)や自分の性別をどう認識しているか(性自認)に関する困りごとを解消するための法整備を目的とした「レインボー国会」が、衆議院第一議員会館で開催。

今年で2回目となるレインボー国会のテーマは「レインボー東京2020」。2020年の東京五輪に向けて、性的指向性自認を理由としたハラスメント「SOGIハラ」をなくし、理解を深め、より公正で平等な社会をつくろうと、超党派国会議員22名を含む約300名が会場を訪れた。

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スポーツ界から何ができるか

2020年東京オリンピックパラリンピックに向けて、スポーツ界から何ができるのか。オリンピックムーブメントについて研究している、中京大学スポーツ科学部教授の來田享子さんから話があった。

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中京大学スポーツ科学部教授の來田享子さん

「スポーツは基本的に男子と女子で種目がはっきり分けられてしまうため、中間を受け付けない仕組みになっています。また、スポーツは勇気や判断力など、社会のリーダーを育てるものと位置付けられ、それが長い間"男性らしさ”とされてきてしまった。でもそれって性別関係なく必要なことですよね。

性別がはっきりしないこと、境界が揺らぐことをスポーツは受け付けない。これがSOGIハラ(が起こる)壁のひとつになっていると思います」。

オリンピック憲章には、2014年から「性的指向による差別の禁止」が明記されている。
さらに、一定の条件のもとで性別を変更した選手も出場できる。

「オリンピックが東京にやってくる。私たちの社会はこれを開催するにふさわしいのか、これまでこの観点に着目していなかった人たちも含め、ここで一気に物事を変えられるきっかけになると思います」。

「いまからわたしたちが変えていく必要があるのは、スポーツ界でセクシュアリティジェンダーアイデンティティについて声を上げやすい状況をつくること。知識不足による周囲からの差別や偏見をなくしていくこと。そして、スポーツ界だけでなく、もっと社会全体からの観点でも、ガイドラインもしくは法律を整えることが必要です」。

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元女子フェンシング日本代表/トランスジェンダー活動家の杉山文野さん

元女子フェンシング日本代表でありトランスジェンダー活動家の杉山文野さん。選手を続けていた25歳まで「絶対カミングアウトできない」と感じていた。やっと伝えることができたコーチには「お前はイイ男を知らないだけだ、俺が抱いてやろう」と言われたこともあった。

当時はホルモン治療をするとドーピングになってしまう。「選手としての道を選ぶと、自分らしくあれなかった。個人としては選手生活を終えるしかありませんでした」。

「自分ひとりで戦っていると思っている選手はいないんじゃないかと思います。ファンや応援してくれる方に対していつも感謝を感じている。だからこそファンを裏切ってしまうことになるのではと。(セクシュアリティを)人には言えないという現実がまだまだあると思います」。

組織委員会が掲げる「多様性の祝祭」

東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会で持続可能性部部長をつとめている荒田有紀さん。組織委員会としてLGBTフレンドリーなオリンピックに向けて何ができるのか。

組織委員会が掲げる3つのビジョンのうちのひとつに「多様性と調和」という項目がある。

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公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会大会準備運営第一局持続可能性部部長の荒田有紀さん

「2020年には、100カ国以上から来る選手だけじゃなく、何十万、何百万人という観光客がやってきます。これだけいろんな背景をお持ちの方が集まるというのは、多様性を理解する上でまたとない機会です」。

具体的な取り組みのひとつとして挙げられるのが「調達コード」だ。これはオリンピック・パラリンピックに関する「モノやサービス」を購入したり、調達したりする際のルールのことで、購入先の企業だけでなく、そこに連なるサプライチェーンに対しても適用されている。

「調達コードは、環境、人権、労働、経済等の分野ごとに基準があり、人権の項目の中で、人種や障がい等に加えて、”性的指向性自認”による差別やハラスメントの禁止が規定されています」。

さらに、実際に東京オリンピックパラリンピックに関わる企業がこの調達コードを守っているかチェックする「モニタリング機能」や一般の方からの「通報受付窓口」も設置する。もし調達コードを守っていない企業があった場合は、組織委員会より当事者間の対話や、改善施策をとるよう促す。

「最後に、この人権分野の大目標を何にするかワーキングチームで議論をしています。まだ決まったわけではりませんが、案として出ているのが『多様性の祝祭 Most Inclusive Game Ever』です」。

これは、LGBTを含めた多様性を前向きに発信するという意味での祝祭だけでなく、差別をなくし、安心を提供する。具体的な被害を救済する取り組みをいかに整えるか、その両輪を表しているそうだ。

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レインボー国会に参加した国会議員の方々(一部)※右上から発言順に掲載

2020年までの立法に意欲

レインボー国会に参加した22名の国会議員のうち、一部からは「オリンピックをきっかけに、立法をするんだという熱意を盛り上げていただきたい」。「(LGBTやSOGIについては)すべての党が公約に掲げている、ぜひ合意形成をしていきたい」。「SOGIハラという言葉を定着させることも重要だ」。「内実をどう勝ち取っていくかを問われる場面だ」。と法整備に関してのコメントが多数出た。

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馳浩衆議院議員

今回のレインボー国会を共催した「LGBTに関する課題を考える議員連盟」会長、馳浩衆議院議員も、他の議員に呼応するように、立法に関する強い意欲を示した。

「その人によって『普通』は違う。私の基本的な考え方として、それを理由に差別をすることは違うときちんと言える社会であってほしいと思っています。

各政党で、性的指向性自認に関する考え方を取りまとめる組織を作り、同時に、超党派の議連や立法チームで検討、2020年の前に、我が国の考えをとりまとめた立法が必要だという認識でおります」。

平昌五輪ではLGBTに関してどんな取り組みがあったのか

レインボー国会の主催団体である「なくそう!SOGIハラ」実行員会委員長の松中権さんからは、先日オリンピックが終了し、現在パラリンピックが開催中の平昌五輪でLGBTに関してどういった取り組みが行われていたか報告があった。

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「なくそう!SOGIハラ」実行員会委員長の松中権さん

韓国におけるLGBTを取り巻く状況は厳しい面もある。プライドパレードには反対する集会が開かれたり、差別に反対する活動家が逮捕されてしまうこともあり、オリンピック・パラリンピックに連動して、LGBTに関する取り組みを広げることはなかなか難しい状況だった。

しかし、平昌五輪では地元のNGOが「プライドハウス」と呼ばれるLGBTについて理解を広げるホスピタリティ施設を立ち上げ、組織委員会に働きかけたり、LGBTについてメディアが報道する際のガイドラインを作成したり、他の国のオリンピック組織委員会と協力し、LGBTに関するイベントを開催するなど、積極的に活動を展開した。

「草の根の活動はたくさんあるけれども、なかなかサポートを得られないと広がっていかない現状がありました。2020年でもいらっしゃる皆さんと一緒にプライドハウスもそうですし、オリンピック・パラリンピックのムーブメントを盛り上げていきたいと思っています」。

2020年の東京五輪に期待すること

最後に、LGBTの当事者や、ALLYの方など立場の違う5名から「2020年の東京オリンピックパラリンピックに期待すること」をテーマにリレートークが行われた。

全日本空輸株式会社(ANA)の杉本さん

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「オリンピック。パラリンピックに向けて、昨年、LGBT研究会を立ち上げ1000人に調査をしました。そこでわかったのは、LGBTは特別な対応を求めているのではなく、平等を求めていること」。
「以前、子ども連れの家族の方から、機内で肩身の狭い思いをする、これは日本社会の縮図なのではないかと言われました。LGBTも同じだと思います。機内から日本の社会を変えていきたいと思っています」。

学生団体「AIESEC」東京大学学生委員会の三登さん、宮下さん

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「私は当事者としてLGBTに対して問題意識を感じていました。特に感じていたのは労働の部分。就活の面接でカミングアウトをしたら帰れと言われた。社内でカミングアウトしたら解雇されたという声を現実の問題として聞きます。LGBTを含むすべてのひとが働きやすい日本になれば良いなと思っています」。

SOGIハラに取り組む意味として『若者』『グローバル』という2つのキーワードがあると思っています。これからの日本を作っていくのは若者です。SOGIハラに対しても若者から声をあげていくことが大切だと思っています。また、日本はSOGIハラに関しては後進国。わたしたちがグローバルに取り組むことで、海外の知見を取り入れて、オリンピックに向けて進んでいけるかなと思っています」。

ダイバーシティラウンジ富山の林さん

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「この中にも地方から来た方もいると思います。自分の街もオリンピックを開く国の地方なんだと思えている人は一体どれくらいいるのでしょうか。2020年に向けて、私たちの地域でも差別をなくしていこうと思っている人はどれくらいいるのでしょうか。2020は東京だけのものではない。地方からももっと声をあげていきたいです」。

「地方は特に、LGBTに限らずさまざまな自己決定を自分の思い通りにできない人が多い現状があり、カミングアウトしたいと思っても言えなかったり、それが不誠実だとずっと自分を責めてしまうこともあります。

でも、あなたは嘘つきなんじゃない。あなたに嘘をつかせている社会の構造が問題です。変えようと声をあげるときにカミングアウトにリスクがあるなら、まず自分を守ってほしい。メディアから伝えられる姿は『あの人はカミングアウトした、勇敢だ』というものかもしれません。でも、自分を守りながらできることはあります」。

「また、SOGIハラはキャッチーな言葉ですが、SOGIだけでなく、Gender Expression(性表現)、Sexual Characteristics(性的特徴)なども大事な要素です。LGBT、SOGIは円周率である3.14と同じ、無限に続く多様性なんです」。

LOUDの大江さん

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「私はレズビアンを自認して、もう40年以上経ちます。初めて話す話ですが、わたしの女性の好みは、お笑いのセンスがある人と、スポーツのできる人です。スポーツ女子が好きなので、ついオリンピック見ちゃうんです(笑)

いよいよ2020東京オリンピックパラリンピックです。ものすごい期待が込められています。これ以上ない切り口だと思いませんか?

私は妄想がとても好きで、レインボーフラッグがここにあるので、アナウンサーの妄想をしてみますね。

オリンピックの開会式で『あ〜レインボーのフラッグがあちこちでたなびいていますね。これは人間の多様性をあらわすシンボルカラーで、特にLGBTの人たちのプライドカラーですね。東京オリンピックのテーマである”多様性の祝祭”ということでレインボーフラッグ、きれいですね、カラフルですね〜』という妄想を込めながら私の話を終わらせていただきます。ありがとうございました」。

 

プロフィール

松岡宗嗣(Soshi Matsuoka)

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1994年名古屋市生まれ。オープンリーゲイの大学生。LGBT支援者であるALLY(アライ)を増やす日本初のキャンペーン「MEIJI ALLY WEEK」を主催。SmartNews ATLAS Program

Twitter @ssimtok
Facebook soshi.matsuoka

「反対が出ても良いじゃん」街とLGBTの橋渡しとなった商店街会長と考える、ダイバーシティと街づくり

東京、渋谷区神宮前二丁目にあるアジアンビストロ「irodori」が3月に閉店する。LGBTのコミュニティスペース「カラフルステーション」を併設しているirodoriは、昨今のLGBTを取り巻く社会の変化の中心地とも言える場所だ。閉店に向け開催される全6回のクロージングイベント、LGBTのこれまでとこれからを考える「カラフルトーク」をレポートする。

 

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第4回のテーマは「ダイバーシティと街づくり」。irodoriはなぜ渋谷区神宮前二丁目でスタートしたのか、irodoriができたことによって街にどんな変化をもたらしたのか。

irodoriのオーナーであり、トランスジェンダー活動家の杉山文野さん、神宮前二丁目商和会会長の佐藤正記さん、渋谷区長の長谷部健さんの3名に加えて、日本のゲイタウンに代表される新宿二丁目で1991年よりWoman’s Onlyのイベントを続けている「GOLD FINGER」プロデューサーの小川チガさんが、多様性を受容する街づくりについて話した。

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左から杉山文野さん、長谷部健さん、小川チガさん、佐藤正記さん

街の人からの予想外の声

irodoriが神宮前二丁目にオープンしたのは2014年。

LGBTに限らず、いろんな人たちが集える場所をつくろうと、irodoriをスタートしました」と話すのはオーナーの杉山文野さん。

「その2年前の2012年に、シブヤ大学の左京さんに誘われて、この近くでBARを出しました。LGBTもそうじゃない人も集まってきてくれて、その時に『新宿二丁目以外にも集まれる場所があると良いね』という話が出てきたんです」。

irodoriができた場所は、もともと八百屋とラーメン屋があった場所。建て替えに際して、外観や内装を手作りで進める部分も多かった。その際、なるべく街の人と交流をしようと、irodoriの壁のペンキ塗りなどに参加してもらうようにした。

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irodori周辺の地図(赤く囲われたエリアが神宮前二丁目)

ある日、住民から一通のメールが届いた。「いつもうちの小学生の子どもは、八百屋さんにいるおじいさんに『行ってきます』『ただいま』と言うのが日課だったのに、おじいさんはいなくなってしまい、工事もはじまり...」という書き出しだった。

しかし、読み進めていくと「新しくできるのがただのカフェかと思ったら、LGBTというコンセプトで、とても嬉しいです。ぜひワークショップにも一緒に参加したいし応援しています」という内容だった。

杉山さん「街の人から敬遠されたらどうしようと思っていたけれど、最初にこのメールがきて、とても嬉しかったです」。

嬉しかったのはメールだけではなかった。イベントに参加した方からirodoriの裏に住むおばあさんについての話があった。そこに住む一人暮らしのおばあさんは、irodoriがあることで、お店は明るく夜まで営業しており、スタッフもいつも気さくに挨拶してくれるので安心して暮らせると話したそうだ。

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神宮前二丁目商和会会長の佐藤正記さん

LGBTという言葉が、まだあまり知られていなかった当時、神宮前二丁目の商店街でも「(理解が)最初からすんなりいったわけではない」と話すのは、神宮前二丁目商和街会長の佐藤正記さん。

「周りは年配の人ばかりだったので、最初はLGBTについてほとんどの人がわかってくれませんでした。やっぱり『夜の店』のイメージが強く、街が壊れると思ってしまっていたのか、変わった人たちが来るのが嫌と思っていたのかも。結局理解してもらうまでに1年はかかったのかなと思います」。

それでも理解が進んだのは「原宿という場所」の効果もあると話す、渋谷区長の長谷部健さん

「原宿の人たちは『自分たちも外からこの街に出てきた』と思っているから、新しい人に対して寛容。(杉山)文野を見て、『(LGBTは)ダメだ!』って思う人はいなかったと思います」。


「反対の声が出ても良いじゃん」と言ってくれた商店街会長

LGBTと呼ばれる人々は今まで「居ないもの」とされていた。その存在が認知される大きなきっかけのひとつとなったのが、2015年に渋谷区でスタートしたパートナーシップ証明書であり、渋谷区の多様性を推進する条例だ。

長谷部区長は「区にできることは限られるけれど、公に認められること、民間を巻き込んだことによって、空気が変わってきたと思うんです。LGBTの人がいることがあたりまえの景色であることが広まるきっかけになったかなと思っています」。

神宮前二丁目の景色が変わったのは「ここ4.5年」と話す佐藤さん。

多様性を受け入れ、地域の人たちと一緒に寛容で魅力的な街をつくる「ピープルデザインストリート」もきっかけのひとつとなった。

「ピープルデザインストリートというイベントを毎年やっていて、子どもたちから障害を持っている人、LGBTの人だったり3000〜5000人がこの通りに集まって、みんな楽しく飲んだり食べたりしています」。

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長谷部健渋谷区長

イベントの参加者の中には、神宮前二丁目の住民やお店を出している人の姿もあった。そのうちのひとり、神宮前二丁目新聞を発行しているポット出版の沢辺さん。「当初は街の人がLGBTに対して理解するのは大変だった」と話す。

「(街の人は)みなさんの家族にいるようなおじいちゃんおばあちゃんで、LGBTなんて会ったこともない。そんな中自然と交流が生まれていったのは、佐藤さんが意識的に考えて動いていったからだと思うんですよね。

佐藤さんは、もちろん発言がずれている所もあるけど、こういう人が街の人たちを結びつけていく。誰かひとりでも佐藤さんのような人を捕まえられると強いですね」。

杉山さんは「もし会長が強く反対していたらここはできなかったと思うんですよね。『反対の声が出てきても良いじゃん、みんなでやってこうよ』と言ってくれたことは心強かったです」。

それに対して長谷部区長は「(杉山)文野たちも自分たちから商店街に溶け込んでいって、商店街側も若手が欲しいし、そうやっていろんなものが重なって今があるんだと思う」と話した。

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小川チガさん

新宿二丁目と神宮前二丁目

パートナーシップ証明書など、渋谷区から取り組みが広がる一方、日本のゲイタウンに代表される新宿二丁目ではどんな変化があったのか。

「GOLD FINGER」プロデューサーの小川チガさん「私が新宿二丁目に行き始めたのは36年くらい前。今は二丁目で飲んでいる子たちと、アクティビストというか、意識を持っている人たちとの差は大きくなっている気はします。

今では、良くも悪くもいろんな人がいて当たり前という感覚になってきたからか、LGBTについて夜の世界で語ることもないくらい。

若い時は恋愛だけ楽しんでということで良いかもしれないけど、年をとってパートナーとの生活を考えたときに、意識の違いが出てきたりと、LGBTの中でも多様性が生まれてきているように感じますね」。

新宿二丁目には、二丁目の「町会」と「二丁目振興会」の二つの組織がある。しかし、「お互いに無関心だ」と語るのは、新宿二丁目で不動産を営んでいるという参加者。

「もともと新宿二丁目遊郭街であり、周囲の人たちもあまり『見ないことにしていた』という雰囲気があります。遊郭街がなくなっていって、ゲイタウンに移っていったのですが、ゲイタウンとしてどう発展させていこうという話はあまり出てきません」。

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杉山文野さん

杉山さんは「LGBTの理解が広がると、わざわざ新宿二丁目に行く必要がなくなって、お客さんが少なくなってしまうのではという声を聞くこともあります」。

「でも外国人は増えてますよ」とチガさん。台湾やタイ、中国といったアジアを中心に、アメリカ、オーストラリア、ヨーロッパなど世界中から観光客がきているという。

「私も海外にいったら絶対お店に行きたいです。逆に『同性婚してハネムーンです』って言ってお店にきてくれる人もいて嬉しいですね」。

新宿二丁目に古くから住んでいる人もいれば、オフィスで働いている人もいる。そういった所にゲイバーなどが混在しているため、騒音やゴミの問題で、LGBTはだらしない酔っ払いといったイメージがついてしまうこともあるそう。

しかし、「それは新橋や渋谷(の酔っぱらい)だってだらしないですよ」と話す長谷部区長。
もちろんゴミや騒音といった問題は改善の必要があるが、どの繁華街でもそれは同じことだ。

「心のバリアフリーというか、文野が商店街に溶け込んでいったように、『俺たちと一緒じゃん』と、ゆっくり理解してもらうことが大事なんじゃないかな」。

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多様性を受け入れあう「場」の重要性

irodoriはLGBTや地域のコミュニティの人たちにとって、どんな場所だったのか。それを探る上で、チガさんは海外の事例をもとに「昼の場所」の重要性についても訴えた。

「私は1986〜7年にロンドンに行ったんですが、そこに『レズビアン&ゲイセンター」みたいなのがあって、私も二丁目以外の場所を欲していたし、LGBTが”二丁目”だけのイメージで語られることから脱することができるのかなと思い嬉しかったんです」。

「例えば、昼間に面と向かってカミングアウトしてもらえるのってすごく嬉しいことじゃないですか、安心感があったんだろうなとか、信頼してくれているんだなとか」。

さらに、チガさんは先日オーストラリアのシドニーで行われた世界最大級のプライドパレード「マルディグラ」にも参加し、その時に感じたことを話した。

「街中レインボーだらけで、とにかく『ウェルカム』だったんです。でも40年前はパレードに参加した人たちは全員逮捕されていたんですよ。たった40年前ですよ。でもいまこんなにオープンになっている」。

長谷部区長は、これからの日本のLGBTを取り巻く環境について「変わるんです、絶対変わるんだけど、そのスピードをいかに速めることができるかというところを考えていきたいです」。

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イベントには新宿二丁目のバーで働いている方や、神宮前二丁目や他のエリアの方など、LGBTもそうでない人も含め層からの参加があった。

神宮前二丁目で多様性を受け入れあう空気ができていった上で、irodoriという「場」のもつ力は大きいだろう。
そんな「場」を基点とした「慣れ」も大事だと杉山さんは話す。

LGBTについてあまり考えたことがない人に「とりあえずご飯を食べに来てもらって、実は僕も当事者なんですと話す中で『なんだ、フツウだね』と慣れていく。企業の人や行政の人たちもこういう場があるんだと、リアルに顔を合わせて話すことができる。

会議や講演では、LGBTについてなかなか気になっていても質問できない。でも、ちょっと一杯だけ飲みに来て話すと『そうか、こういうことか!』と腑に落ちてくれたり。こういう”慣れ”をたくさん作ることができたのは大きかったなと思います」。

LGBTをはじめ、多様性を受け入れあう街づくりのために必要なことは何か。

例えば、当事者が自分たちの存在をアピールしつつ、地域の人たちと密にコミュニケーションをとること。当事者の思いを受け止め、橋渡しとなってくれる人の存在。「互いの違いを尊重しあう」というたった一つだけ、共通の思いを持って集える場所。そして、実際に会って話して、慣れていくという経験。

他にも施設や制度面などもあるが、こうした要素が重なりあうことによって、多様性を受容し、安心して共に生きることができる地域につながるのではないか。

残念ながら、irodoriは3月末で閉店してしまうが、神宮前二丁目の多様性を受け入れあうという姿勢はこれからも続いていくだろう。神宮前二丁目だけでなく、あらゆる地域で、違いを受け入れ合い、誰もが安心して共に生きることのできる場所が広がっていって欲しい。

 

irodoriクロージングイベント「カラフルトーク」過去のレポート

第1弾「LGBTとスポーツの未来」 

第2弾「ゲイアートの巨匠・田亀源五郎さんによるトークショー」 

第3弾「カラフル家族会」

 

 

プロフィール

松岡宗嗣(Soshi Matsuoka)

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1994年名古屋市生まれ。オープンリーゲイの大学生。LGBT支援者であるALLY(アライ)を増やす日本初のキャンペーン「MEIJI ALLY WEEK」を主催。SmartNews ATLAS Program

Twitter @ssimtok
Facebook soshi.matsuoka

「カミングアウトはバトンを渡すこと」家族というチームの中で、どうバトンを繋ぐか

東京、渋谷区神宮前二丁目にあるアジアンビストロ「irodori」が3月に閉店する。LGBTのコミュニティスペース「カラフルステーション」を併設しているirodoriは、昨今のLGBTを取り巻く社会の変化の中心地とも言える場所だ。閉店に向け開催される全6回のクロージングイベント、LGBTのこれまでとこれからを考える「カラフルトーク」をレポートする。

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第3回は「カラフル家族会」。LGBTと家族をテーマに、親にカミングアウトしたLGBTや、これからカミングアウトする人、しない人、カミングアウトを受けたきょうだい、親、親戚など、様々な立場の約30名が集まり、それぞれの経験や思いをシェアした。

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irodoriのオーナーでトランスジェンダー活動家の杉山文野さん

LGBTにとってカミングアウトは、毎日顔を合わせる関係だったり、相手との距離が近いほどそのハードルは高くなる。

誰にだったらカミングアウトしても大丈夫なのか、一か八かの状態で打ち明けるのは勇気が必要だからだ。LGBTは見えにくい存在であるのと同様に、LGBTや多様な性について理解のある人もまた見えにくい。

特に距離の近い家族という関係性において、カミングアウトすることは、これまでよりも良い関係を築く一歩になることもあれば、関係性を壊す一打になることもある諸刃の剣だ。

LGBTのうち、家族へカミングアウトしている人の割合は10.4%という調査もある。会を企画したirodoriのオーナーであり、トランスジェンダー活動家の杉山文野さんは、「LGBTの当事者から相談を受けることも多い」と語る。

「一番多いのが家族との関係について。我が子だからこそ受け入れられることと、受け入れられないことだったりが親子両方の中にあると思います。ただ、話を聞いていると親子のコミュニケーションが不足していることも多い。一緒にご飯を食べることをきっかけにその辺がもう少し柔らかくなったら良いなと思い、今回企画しました」。

 

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父・Yさん(左)と、子のMさん(右)


LGBT」という言葉はまるで想像しなかった。

参加者のひとり、Mさんは女性として生まれ、現在は男性として生活しているFtMトランスジェンダーだ。カラフル家族会には父・Yさんと参加した。

Mさんが自分のことを男性だと認識し始めたのは小学校のとき。スカートははかず、ランドセルは紺色。女性扱いをされたくないという気持ちから「俺」という一人称を使うこともあった。

幼い頃から続けていたサッカーのために、中学受験をして女子校に進学したMさん。地元では男性として振舞っていることを自然と受け入れられていたため、中学では彼女ができたことを周りの人に伝えていた。しかし、友人たちには気持ち悪がられ、輪から外されるようになった。

「普通じゃないんだとはじめて気づいて、今まで女子の友達もいなかったのでその場に居づらくなりました。だんだん学校にも行きたくなくなって、結局中学をやめてしまい、地元の中学に戻りました」。

父・Yさんは「女の子のことを好きなのかなと薄々は感じていましたが、『瞬間的なことなんじゃないか』とか、『いずれは男のことを好きになるんじゃないかな』とどこかで否定してしまっていました。そのときに『LGBT』という言葉はまるで想像していませんでした」。 

就職を期にカミングアウト

Mさんが両親にカミングアウトしたのは大学3年生のとき。就職活動のタイミングだった。

「毎日スカートをはいて化粧をして、女の子として就活することに限界を感じました。これから先もこの状態が続くのかと思うと、今が性別を変えるための最後のタイミングなんじゃないかと思ったんです」。

そう考えたMさんは、まず母親にカミングアウトしようと試みた。

しかし、「お母さんに対して『あのさー....なんでもない、今日の夕食何?』というような感じで、言い出せない日々が続きました」。

カミングアウトの言葉は「あの、彼女がいるんです」という一言。母はそんなMさんについて既に気づいていた。「だって、元カノが〇〇さんと〇〇さんでしょ?」。

その後、母の後押しもあり、MさんはYさんにLINEで「話したいことがある」と送った。

しかし、「(Mは)就職活動中だったので、『一人暮らしをしたい』という話かなと思っていました」と話すYさん。

MさんがYさんにカミングアウトしたのは、母と父、そしてMさんの3人でご飯を食べたあと。「泣きながら『実は彼女がいて、男として好きなんだ』と伝えました」。

「真面目でお堅い父だったので、受け入れられないと思っていました。(カミングアウトした後)父は『可愛い子どもには変わりがない』って伝えたかったと思うんですが、混乱して『Mは俺の娘だから』と言ったんです。そんな父に対して、母は『なんでそんなこと言うの!』と言い、その時は終わってしまいました」。

当時を振り返り、Yさんは「伝えた言葉の記憶はないけど『我が子に変わりはない』と言いたかったんだと思う」と話した。

「娘であるという言葉が持つ意味がわからなかったんです。LGBTに対する知識もなかったので。そのときも、考えて考えてだした言葉がそれで、僕としては『一生味方だよ』という趣旨で言ったつもりでした。でもしびれをきらした妻から『私は男の子を産んだんだから!』と怒られたのを覚えています」。

「ただ、『なんでこうなってしまった』とか、『こうしていれば良かった』とか、そういうことは考えませんでした。『この子がこれからどうすれば良いんだろう、自分はどうすれば良いんだろう』という所で混乱していたんです」。

生きたいように生きれば良い

Yさんはその後、母に渡された多様な性のあり方に関する本を読んだり、当事者の話を聞きにいった。

ある日、Mさんのサッカーの試合の帰りにファミリーレストランに寄った際、Yさんから「Mの生きたいように生きれば良い、応援する」と話した。

「最初から大きな抵抗はありませんでしたが、表現方法にずっと悩んでいました。たまたま一緒に外でご飯を食べるタイミングがあったので、そこで話しました」。

その言葉を受け取ったMさん。帰りの車の中で、自分の性について、これからどのように生きていきたいかを話した。

「そこで自分のことをやっと全部さらけ出せました。父も聞きたいことをたくさん聞いてくれて、聞いてくれるということはつまり受け入れてくれるということだと。やっとカミングアウトが終わったと思いました」。

 その後Mさんは性別を移行するために手術を行った。「手術に関しては親として悩んだし、心配した」と語るYさん。Mさんは「後悔はない」と話す。

Yさんが「何かしたいことはあるか?」と聞いたら、Mさんは「裸で浜辺を走りたい」と答えたという。Mさんが夏に上半身裸になっているのを見て、「母は安心したみたいです」。

息子がいてくれたことで、人生がすごく楽しくなった。

イベントの参加者は皆セクシュアリティを公にしているわけでない。中にはトランスジェンダーの我が子には内緒で参加した親と妹や、当事者で子どもを育てている人の姿もあった。
今回取り上げられるのは本人がセクシュアリティを公にしている人の例に限るが、それぞれの家族が語るカミングアウトにまつわる経験をシェアしたい。

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カツオさん(写真左)、カツオさんの母(写真真ん中)、カツオさんの叔母(写真右)

カツオさんはFtMトランスジェンダー。隣に立つカツオさんの母は「昔は女の子の格好を無理やりさせていて酷なことをしたなと思います」と話す。

「でも、本人からカミングアウトをされたときに『でも、わたしの子には変わりないわけだし』と思えました。あと、幸い友達や学校の先輩、校長先生も理解のある人で、それが私にとっては救いでしたね」。

「最近この子の兄に彼女ができて、その彼女もこの子のことをわかってくれていたのが、親としてすごく嬉しかったです」。


カツオさんの母の隣が、姉でありカツオさんの叔母にあたる方。「最初カミングアウトをうけて、意外と素直に受け入れられました。カツオとして楽しい人生を送ってもらいたいと親戚一同応援しています」。

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小林良子さん(写真右)と夫のヒロシさん(写真左)

FtMトランスジェンダーの子を持つ親である小林良子さんは、「LGBTの家族と友人をつなぐ会」のメンバーでもある。

「現在はトランスジェンダーの息子ふうふと、私の夫と一緒に四人で暮らしています。もし子どもがカミングアウトしてくれていなかったら、寂しい老後だったかなと思っています」。

良子さんの夫であるヒロシさん「息子がいてくれたことで、人生がすごくたのしくなった。幸せいっぱいな毎日を送っています」。

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増原裕子さん(写真左)、増原さんの母(写真真ん中)、父(写真右)

レズビアンであることを公表し活動する増原裕子さんの母は「娘がフランスに留学していて遊びに行ったとき、私から『もしかしてそうじゃないの?』と聞きました。そのときは狭いアパートで気まずくなってしまい大変でした」。

「そうじゃないかな?と思っていたのに、私の方に心の準備ができていなくて。でも夫に聞いてたら『いいんじゃないの』と全く偏見がなかったんですよね。それは救いでした」。

「そこからインターネットや本でLGBTについて勉強していくうちに、なぜか雪解けのようにスッと楽になるというか、少しずつ偏見がなくなっていったように感じています」。

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カラフル家族会の参加者(一部)

良いチームをつくるために、どうバトンを繋ぐか

イベントの中で、「カミングアウトはバトンを渡すこと」という言葉が印象に残った。

小林良子さんは「バトンを渡すというのがまずとても大事なことで、それを私たちがどう受け取るか。もちろん親は100人いたら100人とも捉え方が違いますし、違って良いんです」。

イベントに参加した人たちの多くは、親やきょうだいにカミングアウトして、または当事者からカミングアウトを受けて、その後も良好な関係を築いている。しかし、最初から上手くいっていたわけではなく、それぞれ紆余曲折、お互いに様々な葛藤があった。

親も子も、あくまで違う人間である。家族という名前のチームをつくって生活をするが、そこに「絶対」という関係性はない。いつでも揺らぎ、すれ違い、切れることもある。
そのチームのメンバー構成に決まりはないし、姿もさまざまだ。

カミングアウトというバトンを渡す時、一方的に押し付けても相手は受け取れない。相手とのタイミングが合わなければうまくパスすることもできない。体育の授業で走ったリレーは、何度も何度もバトンを渡す練習をした。自分も相手に合わせたし、相手も自分に合わせてくれていたことを思い出す。

カミングアウトするしないは、本人が選択できるものであって欲しい。その上で、カミングアウトしようと思ったとき、そのバトンをどのように渡すのか。受け取る側も、どうバトンを受け取るのか。
きっとこれはカミングアウトに限ることだけではないだろう。良いチームをつくるために、ひとりひとりにできるバトンの繋ぎかたを考えていきたい。

 

irodoriクロージングイベント「カラフルトーク」過去のレポート

第1弾「LGBTとスポーツの未来」

第2弾「ゲイアートの巨匠・田亀源五郎さんによるトークショー

 

プロフィール

松岡宗嗣(Soshi Matsuoka)

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1994年名古屋市生まれ。オープンリーゲイの大学生。LGBT支援者であるALLY(アライ)を増やす日本初のキャンペーン「MEIJI ALLY WEEK」を主催。SmartNews ATLAS Program

Twitter @ssimtok
Facebook soshi.matsuoka

「マイク役を探すのは絶対無理だろうと思っていた」田亀源五郎さんとNHKプロデューサーが語る「弟の夫」ドラマ化の裏話

東京、渋谷区神宮前二丁目にあるアジアンビストロ「irodori」が3月に閉店する。LGBTのコミュニティスペース「カラフルステーション」を併設しているirodoriは、昨今のLGBTを取り巻く社会の変化の中心地とも言える場所だ。閉店に向け開催される全6回のクロージングイベント、LGBTのこれまでとこれからを考える「カラフルトーク」をレポートする。 

 

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第2回はゲイアートの巨匠・田亀源五郎さんによるトークショー。第19回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞し、さらにNHK BSプレミアムでドラマ化が決まり3月放送予定の話題作「弟の夫」の裏話を語った。

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ゲイ・エロティック・アーティストの田亀源五郎さん。

弟の夫ができた「3つの要素」

漫画「弟の夫」ができたきっかけとして、田亀さんは「3つの要素があった」と語る。

「1つは、約15年前にある青年誌の編集者さんから『(田亀さんの)自伝漫画を読んでみたい』とお話しをいただいたことです。

私の人生はあんまり面白くもないし書きたいわけではなかったんですが(笑)、普段ゲイ雑誌にエロ漫画を書いているので、その時にふと『媒体がその気なら、ノンケ(異性愛者)向けのゲイ漫画を書くのもありかな』と思ったんです。でも当時は「弟の夫」ではなくもっと違う話を考えていました」。

2つ目は、世界中で同性婚の話題が出てきているのを見て面白いなと思っていたこと。「同性婚を絡めた漫画もいいなと思っていたんです」。

3つ目は双葉社から声がかかったこと。「その時に青年誌の時に思いついたノンケ向けのゲイ漫画、同性婚のアイデアを思い出して『弟の夫』の話を思いついて提案しました。そうしたらトトトトっと連載が始まってしまったんです」。

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「弟の夫」:弥一と夏菜、父娘二人暮らしの家に、マイクと名乗る男がカナダからやって来た。マイクは、弥一の双子の弟の結婚相手だった。「パパに双子の弟がいたの?」「男同士で結婚って出来るの?」。幼い夏菜は突如現れたカナダ人の“おじさん”に大興奮。弥一と、“弟の夫”マイクの物語が始まる――。(amazonより引用)


弟の夫を描くに当たって、LGBTを取り巻く課題についてすでに関心のある人や理解のある人ではなく「何も知らないヘテロセクシュアルの人にアピールするというのを意識していました」と話す田亀さん。

同性婚に関する議論が盛んな欧米では、LGBTの知り合いがいるという人も多いが、日本ではまだまだ少ない現状。

「そんな中で同性婚の議論をしたらあまりにも不安だなと思ったんです。そして、世の中を変えるためにはマジョリティの意識を変える必要があるなと思って」。

この考えが「ゲイの弟がいる兄」という設定につながった。

 

連載がスタートした当時は不安だったと田亀さんは語る。

「私は自分の作品に自信はあるけど、これを読者が面白がってくれるかなと不安でした。幸い第1話の反響は良かったけれど、いわゆるネタ的な消費で出落ちの可能性もある。だから単行本の1巻の反響を聞いて泣きそうになりました」。

自身の作風であるゲイ・エロティックについては、「ノンケをターゲットにしているとはいえ、今まで読んできているファンにも『変わってないよ』と伝えるためにシャワーシーンなどはあえて取り入れました」。

シャワーシーンを入れたことにはもう一つ「批評的な意味もあった」と語る。

「ノンケの青年誌は女の子のシャワーシーンや着替えがカジュアルなサービスとして描かれているけど、男性の場合は描かれない。同じシャワーシーンを男性で描くことで『なんでこんな所に男のシャワーシーンがあるんだよ』とギョっとして欲しくて。そこから自分の中の偏見を感じて欲しかったんです」。

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ドラマ「弟の夫」のプロデューサー、NHKエンタープライズの須崎岳さん

ドラマ化は正直不安だったが、すごく納得のいくものになった

ドラマ化の打診は「弟の夫」第1巻が出てすぐ複数社から来ていた。田亀さんは「NHKが一番早かったので他のオファーは断りました」と話す。

番組プロデューサーの須崎さんやNHKのドラマ制作チームと田亀さんが初めて顔を合わせたのは2017年の夏だった。

その際、田亀さんは、脚本に新しい要素を加えることは良いが、「涼二の死因はエイズということにはしないでほしい」と伝えたそう。

涼二は、弟の夫の「弟」にあたる登場人物。主人公、弥一の弟で、マイクの夫だ。

「涼二の死因は話の流れ上重要ではないので描いていないかったのですが、以前インタビューを受けた時に『涼二の死因はエイズですか?』と聞かれたことがあって。まだこんな考えの人がいるのかと思いましたが、それもあり、涼二の死因を付け加えても良いけど、エイズということにはしないでと伝えました」。

また、田亀さんは「露骨な悪役は出して欲しくない」ということも伝えた。

それに対してプロデューサーの須崎さんは「自分の中にある無意識の偏見に気づいていくのが大事で、露骨に差別する人は出て来ない方が良いと田亀さんが仰っていて、その通りだと思いました」と語る。

作品の中でひどい言葉を投げかけてくる登場人物も「悪い人ということではなくて、彼らなりの価値観があって、今はそういう見方をしている人なんだと。むしろこれから腹をわって3回くらい話せば分かりあえるんじゃないかくらいのイメージで脚本を書きました」。

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イベントでは、公開されたばかりのドラマ「弟の夫」予告編を流した。たった2分の映像で会場では涙を堪える人も。


原作のある作品をドラマ化する際、内容が変わることもある。
須崎さんは自らを「オリジナリティを取り入れるタイプ」と語るが、弟の夫は原作のストーリーをあまり変えなかったという。

「脚本家と話し合う中で『原作にすごく繊細に思いが乗っかっているので、僕らの方で新しい要素を盛り込むと、何かバランスが崩れてしまうんじゃないか。その”何か”が何なのかはわからないけど』という意見が出たんです。その声にチームの考えが一致し、概ね原作のストーリー通りに制作することになりました」。

田亀さんは「かなり変わるのかなと思っていたら、エピソード的にはほとんど変わっていませんでした。原作には出てこないオリジナルの役がひとりだけ出てきますが、『あー、なるほど』という感じで、むしろ漫画でもこれやれば良かったと思うほどでした」と話した。

先日マスコミ向けの試写会で第1話を見たという田亀さん。

「見るまえは正直不安でした。でもそれは杞憂に終わりました。すごく納得のいくものでしたし、誠実に向き合って下さり、真剣に作っていただいたというのを感じました」。

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irodoriの2Fに併設されている「カラフルステーション」では、「田亀源五郎『弟の夫』の世界展」と称し原画が展示されている。

佐藤隆太さんと把瑠都さん。なぜこの配役になったのか

ドラマでは、主人公の弥一役を佐藤隆太さん。弥一の弟・涼二の夫であるマイク役を、元大関把瑠都さんが演じる。なぜこの配役になったのか。

マイクの役について、田亀さんは最初「どう考えても(探すのは)難しい」と感じていた。「クマみたいで、体がでかくて、日本語が話せて、演技も出来てって、絶対無理だろと思いました(笑)」。

須崎さんは「日本語が話せるタレントさんやアーティストを片っ端から探した」と話す。

「キャスティングのミーティングでマイク役に迷いシーンとなっていた時に「把瑠都さん、どうですか...?」という意見が出て、一瞬何のことを言っているかわからなかったんです。『え、地域の名前だよね?バルトって」と(笑)」

「元大関の...と言われて『あー、今タレントをやっている』と気づき、スマホで検索したら、ちょうど今、舞台をやっていることを知って。しかも準主役だったんです。見に行ってみたらすごく良くて。ちゃんと気持ちが伝わってジーンと来ました。その後すぐに会わせてもらって決めました。」

「キャスティングは随時送られてくるのですが、把瑠都さんが送られてきたときは『は〜〜!』と。すごい興奮しました』と、田亀さんもこのキャスティングに感心したそう。

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主役の佐藤隆太さんについては、「どういう弥一になるかがすぐに想像できました」と話す田亀さん。

須崎さんは「明るい雰囲気であること」を重視したという。

「弥一はすごく悩んでいくポジションなので、あまりシリアスな感じだと重くなってしまうなと思っていて、普段明るくコミカルな役をやる佐藤さんなら面白くなるんじゃないかなと。実際に子育てをされていて子どもが好きだというのも小耳に挟んでいたので。マッチョではないけど佐藤隆太さん合うなと思ってキャスティングしました」。

続けて田亀さん「この間ロケを見学した際に初めて佐藤さんにお会いして、その時にいきなり『マッチョじゃなくてすみません』と言われました(笑)『それ、単に私の絵のクセので気にしないでください(笑)』と伝えました」。

人と人との関わり方や、家族のあり方が描かれている

最後に須崎さん、田亀さんそれぞれから一言ずつ話があった。

須崎さん「私自身、ゲイだったりLGBTについて、取り分け興味が強かったり詳しかったわけではありませんでした。ですが、こうしてご縁で取り組ませてもらって『あ、そうだったんだ』と、自分自身考えさせられることが多かったです」。

LGBTという言葉が浸透しつつ、でも実際理解はまだまだだろうなというところはあると思います。ゲイや同性婚だったりというテーマではありますが、すごく普遍的で、人と人との関わり方や、家族のあり方が描かれていて、多くの人に見てほしいなと思っています」。

田亀さんは、昨年テレビで放送され炎上した保毛尾田保毛男の件について言及し「表現」について自身の思いを語った。

「問題がある表現を指摘するのはあって然るべきだけど、問題がない表現を世に問うていくことも大切だと思います。”ちょっとこれは”という表現を非難するのに精力を費やすのではなくて、私は良い作品を世に出していきたいと思っています」。

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今回イベントに登壇した3名。左からNHKエンタープライズの須崎岳さん、田亀源五郎さん、そしてモデレーターをつとめた認定NPO法人good aging yells代表の松中権さん。


「良い作品を出して行きたい」そう語った田亀さん。今後の予定について、来月からはじまる新連載についての情報も明かした。

「来月の月刊アクションで『僕らの色彩』という新連載を出すんですが、これもゲイの話にしています。弟の夫ではノンケを主人公にしていますが、今度はゲイを主人公にして、ノンケを感情移入させられると良いなと思っています」。

「内容としては青春モノというイメージを抱きつつ、中学生のころの自分が読みたかった漫画を描きたいなと思っています。主人公が高校2年生で、ゲイであることは自覚しているけど、同級生に告白できなくて悩んでいる。幼馴染の女の子や、謎めいたじいさんが絡んできたりという、セックスでもロマンスでもないゲイを描きたいと思っています。3月24日発売の月刊アクションで掲載します」。

和気藹々とした雰囲気の中行われたトークショー。終了後は懇親会も開かれ、田亀さんは気さくに参加者と交流した。

ドラマ「弟の夫」はNHK BSプレミアムで、3月4日(日)夜10時からスタートする。田亀源五郎『弟の夫』の世界展は、irodori2Fのカラフルステーションにて、3月24日(土)まで開催中だ。

プロフィール

松岡宗嗣(Soshi Matsuoka)

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1994年名古屋市生まれ。オープンリーゲイの大学生。LGBT支援者であるALLY(アライ)を増やす日本初のキャンペーン「MEIJI ALLY WEEK」を主催。SmartNews ATLAS Program

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